お盆と盆花
 今年も昨年同様5、6、7月上旬に大雨が降り、その後梅雨明けとなりました。
雨が多かった分、日照不足による植物への影響も大きかったです。
 早い梅雨明けで昨年より暑い日が早くも到来。夏本番です。

 8月といえば、「お盆」という大きな行事があります。
 最近では、核家族化やその他諸々で、「お盆」という行事が薄れてきているような気もしますが、ご先祖様を迎えるという事と合わせ、親戚一同顔を合わせる良い機会なのかもしれません。
 今回は季節行事の一つとして「お盆と盆花」をご紹介します。

 「お盆」とは太陰太陽暦で旧暦の7月15日前後に行われ、先祖の霊をお迎えし供養するものとされています。
 正式には「盂蘭盆会(ウラボンエ)」「精霊会(ショウリョウエ)」と呼ばれます。
 盂蘭盆会は、お釈迦様の弟子の目連が「地獄に落ち逆さ吊りになっている母親を救うにはどうすれば・・・」という問いに「7月15日に供養を」と教えられた話に由来しているそうです。
 仏教の教えではないようですが、この風習が日本へ伝わり日本古来の先祖霊と重なり「お盆」の行事が行われるようになったと言われています。
 現在は新暦(グレゴリオ暦)を使っていますが、各地域によって異なっているようです。
 関東地方や沖縄・奄美などの一部では7月に執り行なわれ、その他の地域では8月としているようです。
 盆の入り(13日・日付に関しては同じ)の夕方、家の前で先祖霊に帰る家を迷わない目印とし、「迎え火」を焚き、その火を※1盆棚に灯します。
また、地域によってはお墓に参り火を焚き、その火を家まで持ち帰るというやり方もあるそうです。
 その火は提灯やロウソクへ移します。
 初物の果物や野菜、盆花を盆棚に供え、また地域によっては故人の霊魂があの世とこの世を行き来する乗り物(精霊馬)としてキュウリやナスで作った馬や牛を飾ります。
 キュウリの馬に乗り「早く帰ってきてください」、ナスの牛に乗り「ゆっくり帰ってください」との願いが込められています。
 その他には桔梗、女郎花、萩、山百合、しきみ、などの盆花を飾り、ホオズキは、ガクに包まれた果実を故人の霊を導く提灯に見立て、枝つきで盆棚に飾ります。
   ※1 盆棚とは:先祖霊は仏壇にお迎えするのではなく、仏壇の前に小机を置いて昔はマコモと
     いうイネ科の植物でゴザを編み、四隅に竹を立て縄を張りホオズキを吊った棚を用意します。
     (※2結界を作るため)
     現在、盆棚等一部省略されているようです。
   ※2 結界とは:聖なる領域と俗なる領域とをわけ、秩序を維持するための区域の事です。


 お盆が終わる15日の夜、または16日の朝に先祖霊が無事にあの世へ戻れるよう迎え火と同じ場所で送り火を焚きます。
 北九州では8月13日に「小文字焼き」が迎え火とされていて、有名な京都の「五山送り火(大文字焼き)」は15日に送り火とされています。
 最後に「精霊流し」や「灯篭流し」を行う地域もあるようです。
 盆花は、先に挙げました桔梗、女郎花、萩、山百合、しきみの切花を使用します。 ホオズキは枝つきのまま使用します。
 その昔は「盆花迎え」といい、これらの花に先祖霊が乗ってくると考えられていたようですが、現在ではこの風習は殆ど残ってないようです。
(「四季の和ごよみ」より)
  キキョウ (桔梗)キキョウ科キキョウ属の多年草。
 学名:Platycodon grandiflorus
 英名:Balloon flower
 日本をはじめ中国各地に分布し、花は大きく風船のように膨らんだ芽から咲き、杯形や釣鐘形で5つの幅広い裂片に分かれます。
 蕾をプッと摘まむと水が中から出てきます。根は生薬として咳や喉の薬として使われています。 秋の七草の一つ。
  オミナエシ(女郎花)オミナエシ科オミナエシ属の多年草。
 学名:Patrinia scabiosiflolia
 英名:Scabious patrinia
 温帯東アジア原産で、盛り上がった葉の中から茎を伸ばしその頂に花をつけます。花は黄色や白色で小さいです。
万葉の昔から親しまれてきた植物で秋の七草の一つ。
  ハギ(萩)マメ科ハギ属の落葉低木。
 学名:Lespedeza bicolor
 英名:EZO-YAMA-HAGI
 日本および東アジア原産で、葉はクローバーに似ており、表は鮮やかな緑色、
葉裏は薄い緑色です。晩夏にピンクがかった紫色の蝶の羽のような花をつけます。
 これも秋の七草の一つですね。
   ヤマユリ(山百合) ユリ科ユリ属の球根植物。
 学名:Lilium auratum Lindl.
 英名:gold-banded lily
 日本特産のユリです。花の大きさは直径20cm以上でユリ科の中でも最大級。花は白色で花弁の内側中央部分に黄色の筋、周囲に赤の斑点があります。
 日本自生種の中では珍しく、とても甘い香りで、姿かたちが艶やかである事から「ユリの王様」とも呼ばれています。
 シキミ(樒) シキミ科シキミ属の常緑低木。
 学名:Illicium anisatum
 英名:Japanese star-anise
 中国、台湾および日本原産の樹木で、樹皮、幹、枝等に芳香があり、春先に黄緑色の花を咲かせます。
 別名、仏前草とも呼ばれ、実は毒性が強く、種子はアルカロイドを含むので魚を殺すために用いられていたようです。
 果実は毒性が強く「悪しき実」と呼ばれ、その名の「あ」が省略され「しきみ」と呼ばれるようになったとか・・・。
 山中に生息する植物ばかりです。先祖霊は野山を駆け抜けて山里まで降りてくると考えられていたのでしょう。
 今では、あの世とこの世の交通事情も変わったのでしょう。 キュウリとナスが主流になっていますから。

 最後に「提灯」としてのホオズキ。
 ホオズキ(鬼灯) ナス科ホオズキ属の多年草。
 学名:Physalis alkekengi var.franhetii
 和名:ホオズキ(鬼灯、酸漿)
 英名:Chinese lantern plant
 世界中で80種ほどがあり、南北アメリカを始めユーラシア大陸、オーストラリア大陸の温帯地方に分布します。
 歴史的な仮名遣いは「ほほづき」。
 名前の由来は諸説あるようです。
 実の色が人の「頬の色」に似ていることから「顔つき」や「目つき」などと同様な呼ばれ方で「頬つき」になった説や果実をゆっくりもみながら中の種を柔らかくし、その種を取り除いた後の袋を口に含み鳴らす遊びから、「頬突き」と呼ばれるようになった説、ホオズキにはカメムシ(古名:ホオまたはホウ)という虫が集まり吸汁する事から「ホオ好き」と呼ばれるようになった説、と様々のようです。
 漢字で書くと「鬼灯」と現し、中国語では「小さな赤い提灯」を意味します。
 薬効や毒性に関しては、地下茎や根は酸漿根(サンショウコン)という生薬で使われ、咳や痰、解熱、冷え性などに効果があるそうです。

 「お盆」という行事は帰ってきた先祖霊をなぐさめ、また、先祖への感謝の気持ち、生きている事への感謝の気持ち、災厄を祓うためのものなのでしょう。
 新暦の15日前後は全国的に夏休みをとる傾向が大半です。休みを利用して帰省して来られる方も多いようです。
 釜蓋朔日(カマブタツイタチ)、地獄の釜の蓋が開く日を一般的に1日からといい、お盆の準備を始めます。
 地域の言い伝えでは「地獄の釜が開くときは、池や川など水辺には近づくな」とも言われます。
 暑い時期なので水遊びなど、事故が増えるからなのでしょうか。
 もしかしたら〜霊のいたずらで水に引きずり込まれて・・・冗談です!想像すると怖くて水辺には近寄れなくなってしまいますね。
 行事とは言え、古い風習の中で営まれてきたものです。これからも大切に守っていきたいです。

 あと一ヶ月は暑い状態が続くでしょう。お盆休みに疲れをとり、残暑を楽しく元気よく過ごしていきましょう。



御園 和穂  

(11/08/01掲載)  

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