春の花
  3月は、「ひな祭り」や虫が這い出してくる「啓蟄」(ケイチツ)、古くからの行事としては奈良東大寺の法要の「お水取り」があります。
 籠松明(カゴタイマツ)を修行僧が担ぎ、百段以上の石段を駆け上がり二月堂の回廊で火の粉を浴びながら振り回します。観客はこの火の粉を浴びることで「無病息災」を祈ります。
 これらを迎えると、「春」がやってきます。

 園芸店は「百花繚乱」花盛りです。
目移りしてしまうほど華やかな園芸店を覗きながら「春の花」をいくつか紹介しましょう。
 
まずは、艶やかな「ガーベラ」です。
 ガーベラ  学名:Gerbera  キク科ガーベラ属の多年草。
原種のガーベラ・ジャメソニー
(京都府立植物園より)
 原産地は熱帯アジアからアフリカに分布し、野生種で40種が存在します(特に南アフリカが多い)。日本へは明治末に渡来しました。
 別名:オオセンボンヤリ、ハナグルマ
 花屋の店頭では、この時期人気の切り花なのです。歴史はわりと新しく、南アフリカに自生する橙赤色の小さなキク(ガーベラ・ジャメソニー)をイギリス人の採集家が自国へ持ち帰ったのが19世紀末との事。イギリス王立植物園キュー・ガーデンに贈られ、「ガーベラ」の原種として品種改良が重ねられたそうです。
 その後、イギリスからフランス、ドイツ、オランダへ渡り、さらなる品種改良が施され、当初は橙赤色の小さな花が、白・ピンク・橙・黄と色合いも増えました。花の大きさも、花の直径が10cmを超える大輪系のものや小輪系と様々な大きさが生み出されました。
 名前の由来は最初の発見者、ドイツの植物学者ゲルバー(de:Traugott Gerber)の名前に由来しています。
 花期は4月〜9月頃(暖地で11月頃まで)で、真夏は開花を休ませますが秋口から再び開花します。
 また、切り花として流通している品種は2000種を超えると言われ、その9割以上はオランダなど海外から輸入されたもので、切り花の殆どが輸入された苗を元に日本の花卉農家が栽培したものなのだそうです。
 葉はロゼッタ状(※)植物で、葉の脇から茎を伸ばし、その先端に花を付けるタイプです。
 (※ロゼッタ状とは:地面に根から出た葉(根生葉)がペタンと放射状に広がり冬の間に効率良く光をとりいれられる構造と言われている)
 ガーベラの葉と茎の様子 ロゼッタ状はタンポポの姿
 花は筒状花で、花びらの部分が舌状花。
  筒状(筒状花)になった花が周囲を囲み、花びらはそれらに沿う舌(舌状花)のように付いています。
一つの花に見えますが、沢山の花が集合して形をなしています。
 盛んな品種改良によって、筒状花の部分が舌状花に変化し、八重咲きになったりしています。
日当たりの良い、(真夏は直射日光が当たらない)風通しの良い場所が大好きです。また、日照が足りないと葉ばかりが茂り花を咲かせないようになります。
 やや乾燥気味の場所を好み、花に直接水がかかると傷みがでるので、花壇植えの場合は少し気を付けてあげてください。土の表面が乾いたら水を与えましょう。
 暖地では露地でも越冬します。5℃以下になると生長が止まり、0℃を下回ると葉を枯らし休眠状態に入ります。休眠からは、春、気温が上がってくると芽を出して生長をはじめます。
 鉢物の場合(冬場)はベランダか室内の日当たりの良い場所で育てましょう。
 肥料はゆっくり効果がでる緩効性肥料を与えます。
 増やし方は株分けが一番手軽でしょう。株が太ってきたら掘り上げて、太い根を切らないように数個に株を分けます。芽が付いていると思いますので、芽が土の表面に出るよう浅めに植え付けます。株分け(植替え)は春の開花後か、9月頃が適期です。
 切り花が一般的ですが、花壇やコンテナでも楽しめます。ご自身で育てた事がなければ一度チャレンジしてみてください。

 次は、色と形で見せる「キンセンカ」です。
 キンセンカ  学名:Calendula officinalis キク科キンセンカ属の一年草。
 原産地は南ヨーロッパ。別名:カレンデュラ、金盞花、長春花、唐金銭花。
 南ヨーロッパに約15種類が分布しており、秋に種を蒔いて春に花を咲かせる秋蒔きの一年草です。
 早春から初夏にかけて開花し、橙色や黄色の花を次つぎに咲かせます。
 ギリシャ神話やローマ神話にもよく登場し、ヨーロッパでは薬用としても古くから栽培されてきました。
 日本へは江戸時代中期に入ってきました。本来、日本にも同様の花はあったのですが、花が小さく見栄えもしなかったことから外来種をキンセンカと呼び、日本古来の物をホンキンセンカと呼んで区別していたそうです。(牧野富太郎命名)
 日本では昭和に入ると太平洋沿岸の温暖な地域で切り花向きの栽培が始まり、「供花や仏前の花」として利用されてきました。
 お仏壇に供えられるイメージなのでしょうね。
以前、普通に花壇の花として使用した時、お施主様から酷く怒られた事がありました。「仏壇の花を玄関先に植えるな」と・・・。残念な話ですが、全て植え替えました。現在では、花壇の花・コンテナの花として緑の葉色と花色のコントラストの美しさは一際目をひきます。
 花径10cm前後で脇からもたくさんの花をつけます。
 園芸品種も増え、花色は勿論のこと、大きさも大輪の万重咲きや鉢植え用の小輪多花のもの、切り花用で背の高い物まで様々です。

←大型タイプ(花直径10cm~)

←小型多花タイプ
(花直径3cm~5cm程度)
 その他、「冬しらず」の名(アルウェンシス)の小花タイプの苗が出ています。ヨーロッパではごく普通に見られる雑草ですが・・・。
 花壇、コンテナでも楽しめます。本来強健種なので最近は春先、何処かしこで半野生化しているようにも思います。
 名前の由来ははっきりしていませんが、学名のカレンデュラはラテン語のカレンダエ(カレンダー)の語源に由来すると言われたり、意味は曖昧です。
 キンセンカは金盞花と書きます。「金の杯(サカズキ)」、花の姿がそのように見えたのでしょう。
 江戸時代中期に渡来した際は、薬用として使われていました。現在でも、ヨーロッパでは花を摘み、花びらを乾燥させてオリーブオイルに漬けて成分を抽出させ、擦り傷やしもやけ、火傷の治療に用いているようです。
 アロマオイルとしても「心と精神を慰める」と言われて肌、皮膚の様々な症状に強い治癒効果をもたらしているようです。
 その他では高級な香水にも使用されているそうですよ。
 育て方は、日当たり、水はけの良い場所を好み、用土は酸性土壌を嫌うので、植付けをする前に苦土石灰を施しておくと良いでしょう。
 市販されている一般の「花と野菜の土」なら問題なく使用できます。
 肥料は緩効性のゆっくり効くものを使い、葉の色が悪い時や生長が悪い場合は液体肥料を10日に1回程度の割合で様子を見ながら与えます。
 増やし方は、花の後に種を採取し保存しておくと良いでしょう。春に採取して秋に蒔く事をお薦めします。ちなみにキンセンカの種は寿命が長く4〜5年経過しても発芽します(※)
  ※長く置けば置くほど発芽率は落ちますが・・・できれば新鮮な内に播種してくださいね。

 次に、春の一瞬を演出する球根類も見逃せません。
 昨年の晩秋から初冬にかけ植付けた球根はこれから芽をだします。
 もしも、忘れてしまっていても大丈夫! 芽出しのラナンキュラス、アネモネなどが店先を飾っています。

 ラナンキュラス  学名:Ranunculus asiatics キンポウゲ科球根植物。
 原産地は西アジアからヨーロッパ。別名:ハナキンポウゲ。 
 早春から、鉢植えが主流で販売される球根植物です。もちろん花壇植えも楽しめます。
 紙のように薄い花びらが幾重にも重なった姿が特徴です。
 花の大きさは様々で、大輪系のもので15cm程の大きな花があります。花色は赤、黄、橙、ピンク、白等豊富で、草丈は20cmから60cmくらいまで伸びます。
ラナンキュラス 乾燥状態の球根
(植物図鑑参照)
 球根は根が肥大した塊根で、塊に短い根が幾本かくっついています。
 秋植えの球根なので、夏の終わり頃から乾燥した球根が売られています。茎の所(芽が出る所で、その周囲には短い白い産毛が生えています)がしっかりしていて、触ってブヨブヨしていない球根を選びましょう。
 乾燥しているので、湿らせた布や脱脂綿で乾燥球根を包みラップをしてビニール袋にいれます。
 (冷蔵庫に一晩入れておくとよいですよ)
 1日以上かけてゆっくり「戻して」から鉢物や花壇に植え付けましょう。カサカサ球根がピチピチ球根になります。
 キンポウゲ属は世界中に500種以上が分布されており、園芸でラナンキュラスと呼ばれている多くは、原種のアシアティクス(学名で上げているRanunculus asiatics)という原種タイプを品種改良したものです。
 学生の頃はラナンキュラスの大ぶりな花が苦手でしたが、最近は華やかな花姿、花色がお気に入りです。
 ラナンキュラスは花が咲き終わったら花柄を取り除き、葉が黄色くなったら球根を掘り上げます(適期は6月頃)。その後、球根を十分乾かし、涼しい場所で保管してください。(乾燥不十分の場合、高温多湿時で腐ってしまいます。)
 秋口、気温が15℃前後になったら、上記の方法で「戻して」植付けをします。
 ラナンキュラスも秋植えの球根で、寒さにも強く、一定期間低温にもあわないと休眠打破もしないのですが、凍結や霜にあうと球根が傷んでしまい開花に影響がでます。一般的に鉢物として出てくる事が多いのは、育てる上で少し注意が必要だからなのかも知れませんね。
 もう一つは、同じキンポウゲ科のアネモネです。
 アネモネ 学名:Anemone corenaria  キンポウケ科球根植物。
 原産地:地中海沿岸。別名:ボタンイチゲ、ハナイチゲ。
 アネモネと呼ばれているのは、地中海沿岸の野生種でアネモネ・コロナリアや雑種のアネモネ・フルゲンスなどの掛け合わせから作られた園芸種です。
 春先に、一重や八重咲きの花を咲かせ、花色も桃色、赤、青、白等カラフルです。草丈も切り花用の茎の長いタイプや、背の低いコンパクトなタイプまであります。
 球根植物ですが、種もつけます。種は長い毛を持っていて風によって運ばれる事から「風」=ギリシャ語でアネモネ、が語源だと言われています。
 また、ギリシャ神話の美少年アドニスが流した血から生まれた植物という伝説もあります。暖かい春の風になびく姿は優しく可憐な雰囲気です。
 球根は地下茎の一部に養分を蓄え大きくなったもので塊茎といいます。球根は1cm前後の干からびた梅干しのような形で全体に不定形で、尖っている方を下にして植え付けます。
 直接、花壇やコンテナに植付けても大丈夫ですが、出来ればラナンキュラスと同じように「戻して」から植付けましょう。
 花後に球根を掘り上げる場合、葉が黄色くなるまで放置します。その後、鉢植えやコンテナは容器ごと涼しい場所へ動かし夏越しをさせれば大丈夫。
花壇の場合は無理に掘り上げる必要はありませんが、高温多湿が苦手で地下で腐ってしまう事もあります。掘り上げたら、十分に乾燥させて保存してください。
 蕾が今にも開きそうなアネモネが店先に並んでいます。色や大きさ等を確認して、パンジーやビオラ、スイセン、ラナンキュラスなどの球根植物などと合わせて素敵なコンテナを作ってみませんか。
 花壇であれば、ノースポールやマーガレット等の脇やキンギョソウ、ストック等ともよく合います。
 アネモネは花壇でも切り花でも楽しめます。その際、茎を切ったり、折ったりした時に出る汁に気を付けてください。汁に触れると皮膚炎などを引き起こしてしまう事もあります。取扱い時は要注意。触れた場合は水で洗い流してくださいね。
 
 これからは日増しに暖かくなり、下旬には桜も咲き始めます。
 花壇やコンテナの花も元気に育ち始め、周囲が華やかになってくるとウキウキしてきます。「春」を楽しみましょう!

御園 和穂  
(14/03/01掲載)  

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