秋の味覚
 8月までは、よく雨が降り曇りの日も多かったですね。
 植物を管理する上で、水やりなどの手間は省けましたが、晴れた日が少なかったため日照不足の影響がでたのではないでしょうか。
 10月は比較的不安定な時節ですが、気温も下がり始め、過ごし易くなります。夏の疲れを癒して冬への準備を始めましょう。

 「秋」と言えば・・・やはり「食欲=食べ物」でしょうか?
今回は、「実」は果物として、「花」の方はあまり知られていない植物を紹介しましょう。

 まずはイチジクです。
 イチジク 学名:Ficus carica L. クワ科の落葉高木。
 原産地:アラビア南部。
漢字名:無花果、映日果。和名:イチジク。別名:エイジツカ。英名:fig tree。
 歴史は古く、エジプト時代から栽培されていたようで、壁画にブドウと共に描かれています。また、聖書のなかでは、アダムとエバ(イブ)が「禁断の木の実」を食べて、裸体の羞恥心を隠すため、イチジクの葉をエプロン代わりにしたという記述や絵画を見た事があると思います。
 6000年前(中石器時代)から栽培されており、ヨーロッパからペルシャを経て、中国へと渡り、日本の長崎へ江戸時代に入ってきました。
 名前の由来は、中国から入った際、漢字名で「映日果」と記されていたため、音読みして「エイジツカ」と読まれ、それが転訛(テンカ)してイチジクになったとされています。また、実は約一か月で熟し、毎日一つずつ収穫できる事から、「一熟」(イチジク)になったとも言われています。
 イチジクの「花」を見た事ない、という事から「無花果」とも記されます。
 実際にはイチジクの花を目にする事がないので「無花果」とも呼ばれていますが、花が咲かないのではく、花は見えないだけなのです。
 イチジクを食べると、歯ざわりが「プチプチ」した感じです。これは種で、花が咲いた跡なのですよ。(白い花を付けます)
 イチジクは不思議な植物で、実の中に花を咲かせ種を付けます。その後太ったら収穫されます。
 本来、雌雄異株(オスとメスの木がある)で、受粉はイチジクコバチという媒介者がいます。イチジクコバチは花粉を運んでイチジクを受粉させます。
 イチジクとイチジクコバチは・・・イチジクコバチがいないとイチジクは受粉が出来ず、イチジクがないとイチジクコバチは子孫繁栄できない関係にあるのです。イチジクコバチはイチジクの実の中だけに卵を産みます。実の中で羽化しますが、外へ出られるのはメスコバチだけなのです。
 オスはどうなるのか? 実の中でオス・メス一緒に羽化しますが、実の中で交尾をし、オスはメスを実の外へ出すために力を使い果たし、そのまま実の中で死んでしまいます。
 イチジクは雌雄異株。雄の木はオスの実を付け、中に花粉を持っている雄花を咲かせ、雌の木はメスの実を付け、中に受粉できる雌花を咲かせます。ただし、この実、外見で判断できません。
 メスのコバチはオスの実で花粉を付け、メスの実に入ると受粉が完了します。
 これでイチジクは実が出来ますが、コバチは子孫繁栄に失敗してしまいます。メスコバチはオスの実に針を刺して花粉とともに産卵をしますが、メスの実に刺した場合は雌花が邪魔をして産卵はできません。結果、メスコバチは死んでしまいます。なんとも命がけの大勝負! 確率は半々の割合になります。
 メスコバチはオスの実に入れれば卵を産めますが、イチジクは受粉出来ず、メスコバチがメスの実に入れれば、イチジクは受粉出来ますが、産卵は出来ない、と言う訳です。
 はるか昔から共存の道を選び、お互いに生き延びれるよう進化をしてきた「共進化」なのです。
 現在、日本で栽培されているイチジクの大半は「桝井ドーフィン」という種類が大半を占め、単為結果性(タンイケッカセイ)で、実の皮も厚めで運搬時にも実が傷みにくいタイプものが主流です。
残念ながら・・・イチジクコバチは、日本の冬が寒くて生息できないのです。
  ※単為結果性とは:受粉を行わなくても子房壁や花床が肥大して実になるタイプの事
 イチジクの特徴は、果実の中のプチプチでしょう。このプチプチ、元々は花ですがいくつくらいのプチプチがあるのでしょうか?
 数えた人がいる事に敬服します。その数、約1800粒〜2000粒あるそうですよ。
 イチジクは当初は薬用として使用され、現在は秋の果物の一つですが、食物繊維のペクチンが腸を整え、高血圧の原因になるナトリウムの排出を促すカリウムが豊富に含まれています。
 また、「フィシン」というたんぱく質分解酵素を含むので、イタリア料理などでイチジクが多く使われます。フィシンが肉のたんぱく質を破壊することにより肉料理を柔らかくする効果を狙ったものです。  私達にとって食後のデザートにもってこいの果物ですね!(消化を促します)
    ※フィシンとは
 イチジクを切った時に出る白い乳液の事。また、果実の中に含まれる成分。イチジクが傷つけられた時、菌が入らないように防除する働きをもっている。また、フィシンはタンパク質と接触するとタンパク質を分解するタンパク質分解酵素の一種。
   
 イチジクは生食が一番。ジャムやコンポートに加工され、また乾燥させ、パンやケーキの中に入れて使用します。  体のためにも、とても良い果物の一つですね。

 次は栗です。
 クリ 学名:Castanea spp.  ブナ科クリ属、落葉高木。
 原産地:日本、中国、朝鮮半島南部。
 落葉樹で高さは15m〜20m程になる高木です。幹周は80cmを超え、幹肌は灰色で厚く、縦に深めの裂け目(スジ)が入っています。
 歴史は古く、縄文時代の遺跡から出土しています。(青森県:三内丸山遺跡:日本最大級の遺跡5500年前〜4000年前)
 平安時代(794年〜1185年/1192年)、京都の丹波地域で栽培されていたという記録があります。これは、現在も丹波栗として親しまれています。
 ちなみに全国生産量一番は茨城県です。
 それ以前は古事記や日本書記の中にもクリに関する記載があるそうです。
 クリの花は、ブナ科の植物(ドングリ類など)なので、紐のような花を付けます。
 品種によって異なりますが6月頃に白い花を付けます。
 ブナ科植物の殆どが、1本の木に雄花と雌花をつけ、花粉を付けた雄花が風に揺られ、花粉をまき散らす事で雌花に付着し受粉する「風媒花」です。
 それに対して「虫媒花」という方法があり、これは、虫が媒介して雄花の花粉を雌花に運び受粉する事を言います。
 ただし、クリは虫を介して受粉するタイプ。そのためなのでしょうか?クリの花は実に臭い。かなり遠くにいても、その不快な匂いは漂ってきます。
 人間にとって不快であっても、その匂いに寄って来た虫は花粉を運んでくれます。
 その結果、枝から伸びた花茎の根元にイガの子供がつきます。(写真:植物図鑑参照)
 9月から10月頃に実が熟すと、イガが割れて、中から堅い果実が現れます。
 私たちが食べている部分は種子の中にある子葉。周囲の茶の硬い殻の部分はリンゴやブドウなどの皮にあたります。渋皮は種皮になります。
 種まきをする場合は、まずクリを採取し、きれいに洗って陰干しし、その後ビニール袋などに密閉し冷蔵庫で保存します。翌年の3月くらいに保存しておいたクリを取り出し土に埋め込みます。(覆土は3〜5cm程)
 約1ヶ月もすると芽が出始め、秋口くらいには1mくらいまで育ちます。
 生長は早く、「桃クリ三年・・・」というだけあって、3年目くらいから果実を付け始めます。(売られている苗は接ぎ木が殆どです)
 用途として果実は食され、木部は重硬で弾力に優れ、水や湿度に耐え保存性が高く、耐朽性が高いことから重宝されています。防腐剤を注入せずに枕木として使用できる唯一の樹木でもあります。
 さて、クリは果物?野菜?どちらでしょうね?
 スーパーでは野菜コーナーと果物コーナーの狭間くらいに置かれていたり、むき栗(渋皮もむいている物)は野菜コーナーに置いてあったりします。
 農林水産省による野菜、果物の分類については、現在きちんとした定義はなされていないそうです。私の中では果実なので果物と考えています。
 本来はどちらでも構わないような?どちらかは皆さんの判断にお任せしましょう。

 その他の果物の花はこんな感じです。
 柿の花です。
 雌花が受粉すると、花の中央部分が大きく膨らんできます。周囲の顎の部分が果実になったときのヘタの部分になります。
 目立たない花ですが、可愛らしいですよ。
 ブドウの花です。 小さい粒のような部分が花です。
 ピーマンに似た姿の蕾が付き、蕾の周りから5本の雄しべが開き、中に徳利型の雌しべが現れます。実に地味な花です。
 あとは、ブドウの姿を想像してください。
花托部分 パキラ
 リンゴとナシの花です。
 バラ科の植物なので、花はよく似ています。リンゴは蕾がピンクで愛らしい雰囲気。
 ナシは葉を展開させながら、同時に真っ白な花を咲かせます。(写真:植物図鑑参照)
 いずれの果実も4月〜5月頃に開花し、秋に収穫されます。今年の秋は果実を楽しんで、忘れなかったら来春は、是非花も楽しんでみては如何でしょうか。

 これからの季節、「美味しい果物」が目白押しです。
 食べる前に、どんな花を咲かせ、どんな風にして実になったのかをちょっとでも知っているとより一層美味しく感じられるのでは?!
 先日、ナシ(豊水)を頂きました。くださった方がナシを「皮ごと輪切りにして食べると美味しい」と。
 さっそく実行。皮は少し硬かったです。食する部分が多くて満足できました。
 味は・・・軸の方は甘みがうすく、お尻の方は甘みが強かったです。真ん中はその中間。う〜ん、やっぱり縦に四つ割、六つ割で食べる方が、味がまんべんなく口の中で混ざり合うので美味しいかも?
 是非お試しあれ!

御園 和穂  
(14/10/01掲載)  

前回へ バックナンバー 次回へ