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花のコーナー 2015年12月

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花のコーナー

御園 和穂##

2015年12月 花の香り

 カレンダーが最後の一枚になりました。
 今年の後半、8月までは雨が少なく暑い夏でした。9月に入ると大雨と久しぶりの台風直撃で被害がでた所も多く見受けられました。
 10月はやっと暑さも落ち着き少しずつ涼しくなり、11月に入り「冬の到来」かと思いきやコートを羽織る事の少ない暖かい日が多かったです。これも「温暖化」の影響でしょうか。草花は台風で傷みがでましたが、その後盛り返して今でも美しい姿です。これまで暖かい日が続いたとはいえ12月に入るとやはり「冬」になりますので、植替えのタイミングを逃している場合は早めに作業を進めましょうね。

 今回は、「よい香り」の代表として挙げられる「バラ」「ジャスミン」「スズラン」を紹介します。

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 香りとして気になっている一つ目が「バラ」です。
 バラは世界中で愛されている植物の一つです。
 春は一斉に咲き誇る花の艶やかさに魅了されます。秋は四季咲きと返り咲きの開花で、春のような華やかさはありませんが「花色と香り」も楽しめます。
 香りは湿度が低いと弱く、湿度が上がってくると良く香ります。ある程度花びらに水分がないと香りません。日本の場合は春の開花期の5月頃と秋の開花期の10~11月頃の香りがみずみずしく感じられます。
 また春先は香りが強くても、真夏に向かって香りが弱くなります。

     サハラ’98(クライミング)

 花を咲かせるエネルギーはあっても香りを発散する状態にはなりません。
 春や秋の私達が過ごしやすい季節がバラにとっても香りを発散する時期なのです。また、光の影響もあり、朝から昼間に良く香ります。

 バラは古代ギリシャ・ヘレニズム時代(紀元前300年ごろ)から登場したとも言われ、さらにその前の紀元前1200年ごろの板書の記録にもあるようです。人はまだ裸同然で過ごしていた時代で、体を保護するために油を塗っていましたが、バラからとった精油が香りとして好まれていたとのことです。
 古代エジプトの女王クレオパトラもバラを好んだそうです。時代が移りバラ熱はローマ帝国の衰退とともに冷め、14世紀のルネッサンスの頃まで休眠状態になります。 
 休眠とはいえ、中東で栽培は絶える事はなく楽しまれていました。乾燥気候である中東では、バラの芳香は香水に欠かせない重要なものだったようです。11世紀に入ってから中近東へ派遣された十字軍が自国に持ち帰った事によって、ヨーロッパ中にバラが広がります。
 最初は単なる花として栽培されたバラが、ルネッサンス以降は花の形、色、香りなどにも目を向けるようになり、品種改良が盛んに行われるようになります。イギリスやフランスを中心に貴族がバラを好み、17世紀に入ると経済力を持った市民が庭園をつくり、貴族らとバラ文化を創出、バラは高貴な花として登りつめていきます。
 バラは長い歴史の中で交配され、現在のバラは殆どのものが園芸品種です。
 本来のバラの香りから、「果物のような香り」、「お茶のような香り」、「スパイスのような香り」と様々で、同じ品種であっても育った場所や花が咲く時期によっても香りが異なります。
 香りの成分には代表的な4種類あり、この成分を含むバラが「良い香りのバラ」とされています。(2-フェニルエタノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロールという4種類)
 「果物のような香り」とは4種類の香りにレモンの香り(シトラール)などが加わるとモモやリンゴを思わせる香りになるそうです。
 このように掛け合わせることによって様々な香りの品種を作り上げています。
 私はまだ嗅いだことがないのですが、「草を切ったときの香り」や「木のような香り」等、新しい品種には思いもかけない香りの発見があるようです。
 私はアイスバーグを育てています。ティー・ローズ系の中くらいの香りです。特別な香りを主張するわけではないですが、私は大好きなバラです。

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アイスバーグ Iceberg 四季咲き 
 木立ち性のバラ(フロリバンダ系)、純白の花が数輪から大房になり春も秋も沢山の花を付けます。
 花首が細いのでやや下向きに花を付けます。
 トゲも殆どなく、育てやすいタイプです。切花でも楽しめます。その他、淡いピンク色の「ピンク・アイスバーグ」、枝変わりで「つる・アイスバーグ」があります。

 バラは高貴で美しく多くの人を魅了する花ですが、栽培をするには意気込みが必要のようです。
 ヨーロッパでは貴族階級の嗜好から普及したと言われています。贅を尽くし手をかけて、美しい花が咲いた時にパーティーを催し自慢したのではないでしょうか。バラは「それなりの技術」と「余裕」が必要のようですね。

 次は「ジャスミン」です。(写真:図鑑参照)

ジャスミン

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ジャスミン 
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マツリカ

Jasminium モクセイ科ソケイ属。

 世界で約300種類が知られています。アジアからアフリカの熱帯、亜熱帯地方が原産地になります。
 花の色は「白」が基本で黄色のものもあります。
 歴史は古く、古代エジプト時代から、香料原料として大規模な栽培が行われていました。
 現在はモロッコやエジプト、インドが栽培地になっています。以前は南仏などが主な栽培地でしたが、香料栽培が産業としては成り立たなくなってきているようです。
 ジャスミンは夜間に開花するので、明け方に花を摘み取り、※有機溶媒による香りの抽出が行われています。
※有機溶媒とは・・・水に溶けない物質をエタノール、ベンゼン、アセトンなどで溶かすこと。
 溶けた物質を数回の工程を経て、ジャスミンの香料が取り出せます。
 日本でもジャスミンは栽培されていますが、本来のジャスミンは熱帯地方原産なので多くのものは露地栽培は難しいと思います。

 3月の終わり頃、夜中もしくは朝早くに散歩していると、どこからかジャスミン系の香りが漂ってきます。「漂う」というよりは、「むせるような香り」が正しいかも知れません。
 この香りの正体はハゴロモジャスミンです。

ハゴロモジャスミン

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学名:Jasminum polyanthum 
科名:モクセイ科
中国原産、 常緑のつる植物
 
 ジャスミンと同じ仲間ですが、香料は採取できず鑑賞用の鉢物として楽しみます。日本では露地栽培も出来ます。
 蕾のうちはほんのりピンク色で開花すると白い花になります。つる性植物なので、フェンスやアーチに絡ませて楽しむと良いですね。管理は簡単です。
 「ジャスミン茶」も嗜好品として好まれます。こちらはマツリカというジャスミンを使用します。中国南部から台湾、インドネシアで栽培されています。夜に開花するのは同じですが、前日の昼間に蕾で摘み取りをし、蕾が夜間に開き始めた頃、茶葉と混合して香りを移すそうです。
 ハゴロモジャスミンは花も可愛らしく香りもいい植物です。庭の片隅に一鉢、育ててみては如何でしょう?

 最後は「スズラン」です。(写真:図鑑参照)

スズラン 

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学名:Convallaria keiskei
科名:ユリ(キジカクシ)科 
別名:キミカゲソウ
原産地:日本  
開花期:4月~5月

 日本在来の自生種は本州中部から北海道に分布し、毎年花を咲かせる宿根草(球根植物)です。
 自生スズランだと北九州では生育はしません。
 鉢物や切り花として販売されているものは「ドイツスズラン」で、自生種に比べると花が大きく、花茎が長く、葉もしっかりしています。
 ドイツスズランは、高温多湿が苦手で、水はけの良い場所であればよく繁殖します。
 ちなみに学名のConvallaria=コンバラリアはラテン語で谷間 や谷合いを意味し、自生環境に由来しています。Keiskei=ケイスケイは植物学者の伊藤圭介さんにちなんでいます。
 スズランが香り?と思われる方も多いかと思いますが、鉢植えでも切り花でも強い芳香があります。香りを言葉で表すのは難しいですが・・・草の青っぽい匂いとユリの匂いを足して、少しレモンが加わったような酸味のある香りです。
 フランスでは「幸福を呼ぶ花」として親しまれ、5月1日の「スズランの日」には花束にしてプレゼントするそうですよ。
 「聖なる香り」とも呼ばれ、花の印象から可憐で爽やかなイメージの花です。
 4、5月になると園芸店の店先に鉢物が並びます。是非、手に取ってみてください。また誰かに花束をプレゼントするなら、スイトピーやフリージア、バラなどの切り花との組合せも相性がいいですよ。(香りが喧嘩しません)

 バラ・ジャスミン・スズランの香りは「三大フローラル」と言われ、香水の原料としてとても必要な香りです。
 一般的に香水の香料は天然香料と合成香料があり、これらを調合する事で多くの香りが作られます。また食品に香りと味をつける食品添加物(フレーバー)があります。
 バラとジャスミンは天然香料、スズランは合成香料です。スズランは精油が取れないので、成分を分析して化学的に調合されています。
 天然香料はほとんどが植物から抽出したもので農作物として扱われます。
 自然相手の農作物ゆえのデメリットがあり、収穫時期が限られ急な対応が出来ない事、原料から抽出される量が少なかったり、その年の天候によって作物が安定しないため高価であったりする事、品質が安定しない事などの欠点があります。また、※動物から得られる天然香料も動物の個体が減少している事から合成香料への移行も多くなってきているようです。
※動物から得る天然香料とは・・・ジャコウジカから得るムスク、ジャコウネコから得るシベット、ビーバーから得るカストリウム、マッコウクジラからアンバーグリス、この4種が有名。
 「香り」の起源は、人間が火を発見したときからと言われています。
 最初は紀元前3000年頃のメソポタミアで「香りのする杉」を神への薫香として捧げたとされています。その後は古代エジプトの王を埋葬する際、亡骸に香料を塗りミイラにして葬ったという壁画も残っています。
 香料としては白檀(ビャクダン)、肉桂(ニッケイ)、イリス(アヤメ)等で防腐・防臭目的として使用されていましたが、その香りを体に塗り、部屋を満たし、衣服に香りを焚きこみ楽しんでいました。
 日本では「香」という形で飛鳥時代に仏教伝来しています。平安時代になると沈香(ジンコウ)や白檀などを調合し、「供香(ソナエコウ)」として仏前に用いられ、その後宮廷では空薫物(ソラタキモノ)として部屋の中、着物に香をたきしめて楽しんでいたようです。
 一般的に身近になるのは江戸時代からです。江戸初期は鬢付け油として、中期には芳香化粧品として、後期には化粧水が誕生しました。
 明治5年に「におい水」=「香水」として「桜水」「白薔薇」などの国産フレグランスが発売されます。(香りの歴史:参照)
 
 先日、バラのソフトクリームを食べました。淡いピンク色で、香りはバラです。食べてみて「バラって食べるとこんな味なんだ」と、少し想像と違う味を頂きました。美味しかったか?不味かったか?正直わからなかったです。
 私達の周りには、様々な香りがあふれています。食べ物から化粧品、洗剤、シャンプー、石鹸、そして香水。
 外国人に比べると日本人は体臭が少ないので、香りを楽しむには適しているかもしれませんが、最近それらの香料が強くなってきているような気がしています。
 「香り」は心を安らげる効果もありますが、強すぎると不快になる事もあります。
 私も時々香水を楽しむ時があります。20数年前にあこがれてた女性が付けていた香りで、自分もその香りが似合うようになれたら~と努力をしてきました。
 私自身が、瞬間に感じるその匂いが心地よく思えるのは馴染んだ証拠なのかもしれませんね。
 草花は良い香りもあれば、臭いものもあります。是非、草花と合わせて匂いも楽しんでほしいと思います。

 この一年、「花のコーナー」は如何でしたでしょうか。楽しんで頂けたでしょうか?
 新しい年に向かい、さらに植物を含め様々なものに興味を持ち、勉強をしていきたいと思っています。
 来年もご愛読お願い申し上げます。
 ありがとうございました。よい年をお迎えください。

 (15/12/01掲載) 

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