花のコーナー 2016年05月
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花のコーナー
御園 和穂##
2016年5月 フジの花
4月14日木曜日の21時すぎに熊本地方は大きな地震に遭遇しました。九州は地震の少ない地域と言われていますが、今までに経験した事のない規模の大きい地震に見舞われました。被災された方には心よりお見舞いを申し上げます。
また熊本城の石垣が崩落し瓦が落ち、阿蘇神社の拝殿も崩落、山崩れや道路の切断・崩落等、実際に行った事のある場所ばかりです。このような光景を目の当たりにして心が痛みます。一日も早い復興を祈っています。
今回は「フジ」を紹介します。
4月の下旬から咲き始め、5月に入ると一斉に開花します。
花穂が垂れ下がり、風に吹かれるとゆらゆらする姿は何とも可憐な感じがします。
フジ
学名:Wisteria
マメ科フジ属のつる性落葉高木。原産地は日本。(ノダフジ、ヤマフジ)
つる長は~10m程度。開花期は4月から5月です。
北海道を除く、本州・四国・九州に分布。
花色は紫、白、淡い紅色。花序(花穂)は20~100cm位で下垂します。花は茎の方から先端に向かって開花します。花と同時に葉が出始め、葉は最初毛が生えていますが、その後なくなります。
フジの花は、万葉の頃から親しまれ、長寿で、繁殖力が強い事から、「めでたい植物」として親しまれてきました。
古くは「古事記」の中に出てくる『藤の花衣の伝説』が有名でしょう。
~こんなお話です~
『伊豆志袁登売(イズノシオトメ)という美しい女神に、多くの男神が求婚しますが誰一人叶いません。そこへ春山之霞壮夫(ハルヤマノカスミオトコ)が、彼の母親が藤のつるで編んだ衣服と弓矢をもって女神の所へ行くと、衣服、弓矢がフジの花に変化し、女神はその美しさに魅了され、二人は夫婦となりました。』
この伝説は、フジが花だけを鑑賞されるのではなく、つるを加工品とする実用性があることも示しています。
また、着物の柄にも使われ、「藤巴」といい、フジの花を丸くあしらったものです。(写真参照:衣装図鑑より参照)
平安時代の後期、藤原氏全盛の頃に文様として確立されたとされています。ちなみに藤原氏の家紋も「藤文」(下がり藤)とされており、現在でも藤原氏一門においては、この紋様が受け継がれています。
落葉樹なので冬場は葉がありませんが、春先からグングンつるを伸ばし、その後花を咲かせる「生命力」の強さから、「フジ(藤)」は人名や地名にも多く使われています。
平家物語の中にも「松にかかる藤波」として、緑色の松にフジが絡んでいる姿を好んでいたようです。松を男性、藤を女性と見立て「男女和合」の象徴ともしていたようです。
フジにはたくさんの品種がありますが、主に「ノダフジ系」と「ヤマフジ系」に系統分けされます。
まずは、「ノダフジ系(W.floribunda)」。
花房が長く、つるが右巻きです。私達が親しんでいるフジは一般的にこちらの系統です。花房が1mにもなる長藤は見ごたえのあるタイプです。
ノダフジの由来は、摂津国野田(現在の大阪市西成区)の藤之宮に名所があったことにちなみます。
「シロバナフジ」「イッサイフジ」などの園芸品種も多く出回っています。棚仕立てでも、鉢物でも生育できます。
写真の藤の木は我が家のベランダから見える病院の駐車場の脇に植えられているフジです。薄紫の花が咲き始めようとしています。入院されている方やお見舞いの方が藤棚の下のベンチに腰かけて、花を楽しむのでしょう。
こちらの写真は北九州市の「河内の藤園」のフジ棚です。数年前の写真で「野田長藤」です。最盛期に入ると長さ1mほどの花房トンネルになります。
海外でも「世界の絶景10」に入るほどの藤園として紹介されているそうです。
今年もそろそろ最盛期を迎える頃です。珍しい「八重咲き」の品種もあるそうです。賑わっているのはよい事ですが、周辺の道路が狭かったり、駐車場の関係もあり、入場にも制限があるようです。よく調べてから行かれてくださいね。
続いては「ヤマフジ系(W.brachybotrys)」。
花房が短く、つるが左巻きです。新緑の山の木々に絡みつき、藤色の花を咲かせます。
巻き方がノダフジ系とは逆巻きなので、落葉している時期でも見分けられます。北海道を除く、本州、四国、九州の山中に自生し、花色は白、紫、淡い桃。花穂は20cm程度と短いです。一つの花が大きく、ノダフジ系のように幹側から徐々に開花せずに、ほぼ同時に開花します。
葉は大きく、葉裏には柔らかい毛があるので見分けやすいです。
また、谷合の日当たりの良い川辺や湿地を好みます。根は長く伸び、空気を多く含む構造なので根腐れはしません。
日本原産のフジの花は「ノダフジ系」「ヤマフジ系」ですが、それ以外に、中国原産のシナフジ(紫藤)があります。学名はW.sinensis。花色は白と紫で、花が先に開花してから葉が出てきます。
花穂は20~30cm程度でヤマフジなどに比べると花数は少ないです。
ヨーロッパでも初夏の花木としてフジの花は親しまれ、古いレンガの家屋や塀、白壁にエンジの屋根にもよく似合います。
これらのフジは中国原産のシナフジを品種改良したものです。
つるは左巻きで、日本のノダフジとヤマフジの中間的な形態をもっています。
日当たりの良い場所を好み、日本のフジ類に比べると乾燥に強く、原産地の中国をはじめ、ローマなどヨーロッパの各地、北アフリカでも広く栽培されています。
写真、滝口の上部に垂れ下がっているのが多分フジだと思われます。意識をして「これだ」と写真を撮ったわけではありません。眺めていて、「もしかしたら」です。(ヴュットーショーモン公園の人工の滝口)
日本のものに比べると花穂は短く、葉が大きく伸びています。初夏の水辺で美しく映えます。
日本人だけではなく、海外の方にも好まれる花木です。
マメ科の植物なので、開花後放置していると豆鞘(モロッコマメ)が出来ます。
実をつけたままにすると樹勢が弱くなりますので、花後には花柄摘みと合わせて軽く剪定をします。
春から夏に伸びた充実した短い枝に来年花を付けます。花芽分化は7月下旬から8月にかけて行われます。7月上旬に入ったら、芽を見ながら4~5芽ほどを残して枝を切ります。また、勢いよく伸びる強い枝は先端を切ります。(必要以上に伸びないようにするためです)
合わせて、ツルが伸びて絡んでくると、枝の中まで日が当たらなくなるので、込み合った場所なども合わせて枝抜きを行いましょう。
冬の剪定は落葉した後に行います。こちらがフジにとってメインの剪定になります。
花芽と葉芽の区別が付くと思います。花芽は葉芽に比べると「ふっくら」した形をしています。長く伸びすぎた枝や花芽の付いていない枝は切って整理しましょう。
「ノダフジ系」は芽がわかりにくいタイプです。確認できないようであれば深めの剪定はやめておきましょう。また、夏の剪定を忘れてしまい、9月に入ってから剪定すると、狂い咲きをする場合があります。9月のお彼岸くらいになると芽の確認はできますが、剪定は冬まで待ちましょう。
フジは水を好みます。夏場、鉢植えの場合は小まめに水を与えましょう。肥料はマメ科の植物なので根に根瘤菌が付きます。よって特別に肥料を与える必要はありません。
「花を沢山咲かせたい」という気持ちから鉢を大きくしたくなるのですが、フジは毎年大きくしていくと栄養生長が盛んになってしまうので、花付きが悪くなります。要注意!です(マメ科なので移植を嫌います)。
増やし方は挿し木か接木。挿し木は3~4月、花後から7月頃が良いでしょう。接木の場合は3月頃になります。
『河内の藤園』
白色のフジです。
樹齢はわかりませんが、くねっている幹からたくさんの小枝がでて見事な花を付けています。
紫の花穂の方はドーム型になっていて、ドームの中にも入ることができますし、外側からも観賞できるようになっています。やさしい香りと花房の美しさに時間も忘れてしまいます。機会があれば、是非、観賞されてみては如何でしょうか。
最後に一言。
「サクラ」の時にも書かせていただきましたが、樹木は根元部分の「踏圧」にとても弱い生物です。マメ科は真っ直ぐ伸びる根を支持根として、細かい根が縦横無尽に伸びています。観賞をするために、踏み込んでいくと土壌が硬くなって、雨が降っても浸み込まなくなるし、根が呼吸できなくなって酸素も不足します。
「すぐにどうかなる」わけではありませんが、柵があれば中には入らないようにして、樹に対する「思いやり」をもってあげてください。外周から観賞する、など少しだけ意識をしてみてください。
今の季節がくると私達を楽しませてくれる花木です。いつまでも大切にしていきたいものです。
(16/04/28掲載)