花のコーナー 2016年08月
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花のコーナー
御園 和穂##
2016年8月 街中の緑
暑い夏がやってきました。
今年は「例年になく暑い夏になる」と言われています。予告通り梅雨が明ける前から毎日30度を超え、連日、じっとしていても汗が流れる蒸し暑さです。
いつの間にか蝉も鳴き始め、朝から賑やかです。
草花も元気に花を咲かせていますが、そろそろくたびれてきていませんか。
雨は降ってくれますが、降りだすと嵐のようです。水やりは軽減できますが、強い雨風で茎が折れたり、倒れたりしていませんか。花柄摘みに合わせて軽く切り戻しをして花の数を減らしてあげましょう。
少し手間をかけるだけで秋から元気に花を咲かせます。
もう暫くは暑さとのお付き合いです。無理のないよう頑張っていきましょう。
今回は、「街の中の緑」を紹介します。
慌ただしい日常の中、街中のを気にかける事もなく「あってあたり前」ですが、こんな緑を目にしました。建物にとってはよくないのでしょうが、壁面の緑は街中のオアシスのようです。
ツタ(ナツヅタ)
学名:Parthenocissus tricuspidata
ブドウ科ツタ属 夏緑性のツル植物。
英名:Japanese Ivy、Boston Ivy
原産地:北海道から九州、朝鮮半島、中国の山地など。
花は6月~7月。目立たないので気が付かない事が多いです。10月頃に黒い実になります。コンクリートなどの構造物に吸盤で巻きひげを伸ばしながら広がっていきます。
名前の由来は、どんな所にでも「つたって」行くことから「つた」と呼ばれた言われています。
花も実も小さく観賞用ではありませんが、落葉性なので、晩秋の紅葉は美しく、その後、葉は落ちてしまいますが、伸びたツルの茎枝姿には風情があります。
今の時期、巻きひげ(茎になる)はぐんぐん伸びていきます。伸び過ぎた茎は剪定をするか、茎を取り除く事で調整をしますが、茎の吸盤跡が黒く残ってしまいます。(写真参照)
緑の葉は美しいのですが、必要が無くなった時、壁に残った黒い斑点は見た目にも良くはないのが難点かもしれませんね。
ナツヅタとよく似ている植物があります。ウコギ科キヅタ属「ヘデラ」です。姿(葉の形)はよく似ていますが、大きな違いは、冬に落葉するのが「ナツヅタ」、冬場においても緑の葉をつけているのが「ヘデラ」です。
〓ナツヅタの葉〓(落葉性)
葉は2つの種類があります。花の付く茎(枝)の葉は大きく、長い葉柄があります。5~15cm程で、葉先は3つに分かれ尖って縁は鋸歯(ギザギザ)があります。
花の付かない茎(枝)は、葉は小さく、葉柄も短いです。葉は切れ込みのない物や1~3つに分かれているものがあります。
〓ヘデラの葉〓(常緑性)
ヘデラは種類が豊富で多くの用途があります。観葉植物としてコンテナの寄せ植えや、戸外のグランドカバーなど様々な場所で使われています。
葉は丸いタイプから5つに分かれているタイプがあります。鋸歯(ギザギザ)はなく葉の縁はツルンとしています。
ナツヅタとヘデラはよく似ている植物ですが、異なる植物です。
阪神甲子園球場のツタはナツヅタ。1924年に球場の建築時に植えられ、リニューアルの際に一度伐採されましたが、球場のナツヅタの種を別の場所で育成し苗が植えられました。
また、2000年には日本高野連加盟校約4000校に株分けをし、各学校で育ててもらったナツヅタの苗をリニューアル後に「ツタの里帰り」という計画で進めました。
2006年秋には全国233校から育った苗が戻ってきたそうです。現在、それらの苗は元気に生育をしているそうです。
これらの壁面緑化はヒートアイランド現象の緩和や空調機能にも効果があるそうです。
今回街中で見かけた壁面のナツヅタ、これからの紅葉や落葉後の姿、春先の新芽の頃まで見届けてみたいと思います。また報告しますね。
次は、街中の緑の代表選手、街路樹です。
街路樹は日本全国で植えつけられています。北九州市も各幹線道路には立派な街路樹が植えられています。
これもナツヅタ同様、住み慣れたいつもの通りに植わっている当たり前の風景なので意識をすることがないと思います。
あえて意識をしてみましょう。
歩行中、暑さから逃れるために飛び込むのは街路樹の下です。運転中、ちょっと駐車するときも街路樹の木陰です。
北九州市内でよく見かけるのは「ケヤキ」でしょうか。
枝葉を大きく広げて、風になびく姿は優しい姿です。秋の落葉と同時に枝だけになってしまいますが、冬の陽ざしを十分に与えてくれる陽だまりになります。
「イチョウ」もよく見かけます。イチョウの場合は円錐形の樹ですからケヤキ程の緑陰は与えてくれる事はありませんが、独特の樹形と葉が楽しめます。
春先の小さい葉から初夏の大きく育った緑の葉、秋から黄色く色づく葉、場所によっては実が熟して「ギンナン」が楽しめる場所もあるかもしれませんね。
私の通勤路には「タイサンボク」が植わっています。
かつて、路面電車が走っていた通りで、道路自体も狭く、その両サイドに植えられていたのでしょう。現在も並んではいますが、歯抜け状態。ほんの少し前までは、直径30cm程の白い花を樹木いっぱいに咲かせていました。
その他では「ヤマボウシ」「ハナミズキ」「トウカエデ」「アメリカフウ」「ヤマモモ」「クスノキ」など、様々な街路樹が見られます。
街路樹の役割はただ並んでいる並木ではありません。
街の景観の美しさ、都市の質も向上させてくれると思います。市外からの来訪者が最初に目にするのがこの豊かな街路樹です。
街路樹の木陰による道路の気温上昇の低下、都市のヒートアイランド現象の抑制、臨海地区であれば、潮風や強風の緩和にも役立っています。また、災害や火災の際にも延焼防止などに役立ちます。
街路樹は自然の状態で今の姿をしているわけではありません。
定期的に剪定を施し、維持管理がなされています。機械で整うものではなく、1本1本人の手で丁寧に剪定され、現状を維持しています。
北九州市の街路樹は関係者の意識と技術によって、他府県の街路樹に比べるととても美しいと思います。私は!
日中の炎天下にはお勧めしませんが、あえて街路樹の木陰を歩いてみてください。結構気持ちよいですよ。
今回最後は、海外の「街中の緑」です。
雑誌を読んでいたら「ガーデンシティ」の特集が掲載されていました。
以前に見に行った場所ですが、すっかり忘れていました。
「街中の緑」というよりは、「空中庭園」の呼び名の方が合っているかもしれません。
場所はシンガポールの中心地でチャイナタウンやシンガポール川周辺のビジネス街の一角に2013年にオープンした「パークロイヤルホテル」です。
コンセプトは「庭園の中のホテル」です。
バリ島の棚田をイメージしたという、段々畑のような曲線の構造が目を引きます。ビルの周囲約1.5万㎡を緑が覆い、緑が際立つ建物です。
正面の入り口です。
緑だけでなく、天井や壁も同じ棚田のイメージでデザインされていて目を引きます。
1階のプロムナード部分はプルメリアが植栽されています。
足元はエアプランツのブルボーサが植栽されていました。
通路脇は水が流れていて、風が吹くと涼しく感じられます。
上階にはスパやプールがあります。
滝が設置されており、流れる水は循環して利用されています。また自然遊歩道も設置されており、溢れんばかりの緑量は、まさに都会の中のジャングルです。
屋外プールがある場所から外観を覗くと当然ですが、周囲は観葉植物で覆われています。
鳥かごのような建物は「カバナ」です。
「カバナ」とは廊下や通路を通らず、直接浜辺やプールに出られる客室の事です。また、天蓋(キャノピー)を備えて周囲にカーテンなどを下げた「しのぎ場」と言われます。
中はソファーとクッションがセットされていて、ドリンクなども楽しめる空間になっています。(周辺植物:ゴムの木の仲間、プルメリアなど)
「カバナ」に入ってみましたが、周辺の樹木より高い位置に張り出した作りなので落ちそうな感覚が蘇りました。(周辺植物:クワズイモとシダ類に組合せ)
雨水を溜めて利用し、太陽光発電を活用した、環境に配慮したホテルで海外からも注目を浴びているそうです。
エレベーターホールの脇に設置されていた「ガーデン」です。
ローズマリーやBrinjal(ナスの事です)、後ろ手にはキュウリやニンジンが植えつけられていました。
「ベジタブル&ハーブガーデン」です。
シンガポールという地域性はありますが、「緑のあり方」というか「緑との共生」という部分では都会の中での「緑の存在」をもっと勉強して、自分の街にも応用できれば素晴らしい事だと思っています。
機会がありましたら、是非足を運んでみてください。
今回は「街中の緑」を紹介しました。北九州市は国内でも市自体が周囲を山に囲まれ緑豊かで、街路樹や公園も緑量は多いと思います。
また、他の地域に比べると市自体がきれいに整備され、街路樹も整っていると思います。
今は、陽ざしが強すぎて日中散策すると倒れてしまうかもしれませんが、季節が少し移ろいで過ごしやすくなったら、「街中の緑」を楽しんでみてください。また、街路樹は季節によって姿や葉の色などが変化します。
慌ただしい毎日ですが、少し目線を上に向けてみてください。「緑」に心が和むと思います。
もう暫くは暑い日が続きます。
毎回書いていますが、暑い中の植物管理は大変です。植物は大切ですが、まずは自分の体が優先です。日中に作業する際は、こまめな休憩と水分補給を忘れないでください。
少しでも体調が「おかしいな」と思ったら、木陰に入って休んでください。
合わせて緑の効用も感じてくださいね。
(16/08/01掲載)