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花のコーナー 2020年04月

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花のコーナー

御園 和穂##

2020年04月 ツツジ類

 4月を迎え、新年度、新学期、新社会人と年明けとは異なるスタートの時節です。ソメイヨシノも終盤、その後八重桜が咲き始めます。

 昔は農業や漁業の繁忙期に入る前の4月上旬から中旬にかけて「物忌み(モノイミ)」と言って、野遊びや磯遊びで過ごす日があったそうです。山々に神霊が宿るとされており、農事に先立ち一日休み、野山に出かけて山から田へ神様を迎えるための宴を開いたそうです。野遊びは山菜を摘んで、木々の新緑や山フジ、つつじなどを楽しんだそうです。
 磯遊びも野遊び同様、厳しい労働の前の休息のようです。磯遊びは現在の潮干狩りと共通するものでしょう。春本番、華やかな季節の到来です。

 今回は、新緑の季節の色どりと北九州市の市の花でもある「ツツジ類」を紹介します。

ツツジ類

画像の説明

学名:Rhododendron
ツツジ科ツツジ属 常緑、半常緑、落葉低木
原産地:主に東アジア(常緑性ツツジ)、北半球全域(落葉性ツツジ)
漢字名:躑躅
花時期:3月から6月

 ツツジは、古くから私たちの身近にあり馴染みの深い春の花木です。
 街路の歩道脇を飾るツツジ類の列植は、歩く方や運転をする方を楽しませています。また、公園や庭園でも季節の演出と私たちの目を魅了します。

 歴史は古く、万葉集の中にも詠われています。そこではツツジ=茵花(ツツジ)、白管自(シロツツジ)、石菅自(イワツツジ)と記されていたようです。
 その後「枕草子」では庭木として登場し、平安時代中期には、野山から貴族の庭園に移植され楽しまれたとの記録があります。
 現在の漢字名の躑躅(ツツジ)は平安中期から使われているようです。元は中国原産の猛毒植物で羊躑躅(ヨウテキチョク:シナレンゲツツジのこと)に由来すると言われ、羊がツツジの花を食べたところ、躑躅(テキチョク)=歩けなくなって~との意味ですが、動けなくなって死んでしまったという逸話があります。
 それ以後、ツツジは全てが有毒だと信じられ、全てのツツジに「躑躅」が当てられたようです。ちなみに、日本国内にあるツツジで有毒(花から根まで)なのは「レンゲツツジ」のみです。



 『レンゲツツジ』学名Rhododendron japonicum 落葉低木。

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鮮やかな朱赤からオレンジ色の花を咲かせます。通常は日当たりの良い高原などに自生しています。乾燥に弱く、高原地帯の湿地帯に群生しています。園芸品種もあり、鉢植えでも楽しめます。

 日本で「ツツジ」の呼び名はツツジ類全ての総称で、現在では数千種類に及ぶ野生種と園芸品種があります。
 江戸・元禄時代にツツジ全盛期を迎え、「元禄の躑躅」と呼ばれ園芸品種も一気に増えたそうです。当時薩摩から「キリシマツツジ」を導入したり、ツツジ図譜「錦繡枕(キンシュウマクラ)」まで刊行され、植木屋の様々なツツジの花が店先を飾ったそうです。
 日本でも数多くの園芸品種が誕生しましたが、とりわけ「クルメツツジ」「ヒラドツツジ」の園芸品種は世界的にも有名です。



『クルメツツジ』学名Rhododendron obtusum var.obtusm 常緑低木

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 江戸時代末期に久留米藩(現在の久留米市)士によって集められたツツジの種子が発芽後に自然交雑されて生まれたものが元で、その後地元の園芸家に受け継がれ、当時、秀でた花は「お留花(オトメバナ)」として門外不出とされました。
 1918年にアメリカにクルメツツジが紹介され、一気に欧米全体に庭木として広まったそうです。
 花は小型で樹高は低く、花色も豊富で花付きも良く育てやすい花木の株物です。交配はサタツツジとヤマツツジにミヤマキリシマが加わったと言われています。



『ヒラドツツジ』学名:Rhododendron ×pulchrum 常緑低木

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 江戸時代、南蛮貿易が盛んだった長崎県平戸に海外の珍しい品物と合わせて、沖縄からケラマツツジや中国のタイワンヤマツツジが入ってきました。武家屋敷に植えられたこれらのツツジは現地のツツジと自然交雑を繰り返し、その品種の中から選抜された秀花がヒラドツツジとして世の中に出ました。大型のツツジ品種です。 

 種類としてオオムラサキツツジ(大紫)は、ヒラドツツジの代表的な品種で、赤紫の大輪の花を咲かせます。
 アケボノ(曙)はオオムラサキの枝変わりで、淡い桃色と白の覆輪の大輪種です(上記の写真)。
 マイスガタ(舞姿)は桃色の巨大輪の美しい花です。シロタエ(白妙)はアケボノの枝変わりで、白花です。

 花は10cmを超え、花色も豊富で沢山の花を咲かせます。樹勢もよく、育てやすく、満開時の姿は素晴らしいです。
 世界に誇れる2つの園芸品種です。ただし、生い立ちは様々な自然交雑によって生み出された園芸品種だったとは・・・・。
 ツツジの由来は、花が連なって咲くことから「つづき咲き=ツツジ」や花が筒状になっていることから「筒咲き=ツツジ」が転じたと諸説あります。
 花はロート状で先端は5枚に分かれます。枝の先端に幾つか放射状に集まって開花します。花色は白、ピンク、濃いピンクや朱と様々で、園芸品種では覆輪や絞りがあり、一重、二重、八重など花の形も多く、実に華やかな花木です。

【育て方】

  • 日当たりと水はけの良い酸性土壌を好みます。
  • 水やり:ツツジ類は根が浅いので、庭植えの場合は極端に乾燥をしない限りは必要ありません。鉢植えの場合は、土の表面が乾いてきたらタップリ与えます。
  • 肥料:冬の寒肥と花後に化成肥料を与えます。
  • 剪定:花後出来るだけ早めに行いましょう。翌年の花芽が夏の間に出来ます。夏以降の剪定はせっかくの花芽を切ってしまうので要注意です。
  • 増やし方:挿し木で増やすことができます。6月~7月が適期です。
  • 植替え:開花時期を除く3月~6月、9月~10月が適期です。

■レンゲツツジもツツジ類と同様根が浅いので、水管理は小まめにおこないます。

  • 剪定:枝数が少ないので基本的には剪定の必要はありません。樹形を整え混んだ枝を整理する場合は開花後出来るだけ早く剪定しましょう。
  • 増やし方:レンゲツツジは挿し木が難しいので種で増やします。10月~11月に花後の果実が茶色くなったら種を取り出します。1mmほどの細かい種が取れます。紙に取り播種したら土を乾かさないよう管理します。
    春には発芽してきます。開花まで3~4年はかかります。
  • 植替え:落葉樹なので11月以降3月までが適期になります。



 ツツジ類は見慣れていても、品種までは見分けていないのが実状でしょう。

 花は小輪から大輪まで様々。最近はバラのような花がつくタイプや花弁の先が尖ったタイプもあります。
 日本中にはまだまだ数えきれないツツジがあるのでしょうね。


次は、ツツジの仲間のサツキです。

サツキ

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学名:Rhododendron indicum  ツツジ科ツツジ属 常緑低木
原産地:日本
別名:杜鵑花(トケンカ) 
漢字名:皐月
開花時期:5月~6月

 山奥の岩肌などに自生し、陰暦の5月頃に開花するので「サツキ」と呼ばれ、ツツジの花が終わるころから咲き始めるので区別されていますが、植物学上ではツツジの一種で「サツキツツジ」と呼ばれます。

画像の説明

 盆栽や庭木に利用され、江戸・元禄時代のツツジ図譜「錦繡枕(キンシュウマクラ)」には、すでに150を超える自然交雑による品種が掲載されていたそうです。
 サツキツツジは、一般的に葉、花の大きさは小ぶりのイメージがありましたが、花の大きさは中輪、大輪種と様々あります。また、花も一重、二重、八重、腰蓑咲き、桔梗咲き、筒咲きなど多くの品種があります。

 バラエティに富んだサツキツツジは庭園や盆栽で親しまれ、特にサツキ盆栽は2000種を超える品種が作られています。
 自生種は日当たりの良い、増水すると水没してしまうような場所を好みますが、園芸用に乱獲され、ダムや護岸工事などで激減し、絶滅危惧されている植物でもあります。
 花は1週間ほどかけて順次開花します。
 管理はツツジ類と同じです。サツキツツジは枝数が多く芽吹きも良いので、花後、伸び始めた新しい枝も一緒に深めの剪定が可能です。
 刈り込んで小型のトピアリーに仕立てることもできます。

  • 増やし方:挿し木が一般的です。品種が多いので、様々な花姿を観察し好みの品種を挿し木すると良いでしょう。適期は6月~7月。充実した新梢を10cm~15cmほど切って挿します。

■その際の注意点
 品種によりますが、「絞り花」の品種は「絞り花の出ていた枝」を、咲き分け(1株にさまざまな模様の花を咲かせる)」品種は、「白無地か絞り花」の枝を挿しましょう。
 枝を選ばないと、親と同じ花が咲かないこともありますので注意しておきましょう。でも、親とは異なる花が咲くのも楽しみですね。



最後はアザレアです。

アザレア

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学名:Azalea,Rhododendron simsii cv
ツツジ科ツツジ属 常緑低木 
別名:西洋ツツジ

 タイワンツツジをベースにケラマツツジ、サツキツツジの園芸種など複数の交雑によって生まれた園芸品種です。
 1800年代初頭、常緑性のツツジが自生していないヨーロッパにタイワンツツジやリュウキュウツツジ、サツキツツジなどが輸出され、その後ヨーロッパで交配され現在のアザレアが誕生しました。
 特にオランダ、ベルギーで多くの品種改良が行われ、明治25年頃に、鉢植え用に温室促成栽培にて品種改良された「アザレア」が日本へ帰ってきました。
 当時、栽培方法が明らかでなかったため育てることが出来ず、さまざまな方法を試みたようですが普及には至らなかったそうです。その後、栽培方法が進展し大正末期に新潟県を中心に栽培されるようになりました。現在、新潟県はアザレア生産量国内の8割を占め、毎年新しい品種が誕生するほど盛んに生産されています。

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 暖かい地域で改良されているため、寒さに弱く、鉢花として室内で育てます。
 園芸店の店先には12月~3月ごろ、艶やかな花をつけた鉢が並びます。
 アザレアは自然の状態では、7月下旬ごろから花芽が作られ、10月ごろから蕾が見えるようになります。
 晩秋から販売されているアザレアには、この性質を利用して春に矮化剤を散布し花芽を付けさせ、夏に冷蔵庫にて低温で育て、その後暖かい場所に置くと晩秋から開花します。時期と操作をずらせば、真冬でも出荷が可能になります。
 本来は4月~5月に開花しますが、花時期がコントロールできるため晩秋から楽しめます。
 晩秋から冬に購入した場合は、日当たりのよい窓辺で楽しみます。春以降は戸外で日当たりの良い場所で育てます。
 花は一重、八重咲き、フリル、バラ咲きなどがあり、花色もピンクや白、赤、絞りとバラエティに富みます。ツツジ類が親ですが、ヨーロッパで改良されたからでしょうか。ひときわ洗練された花だと思います。

■栽培方法

  • 春からは戸外の日当たりの良い場所で育てます。
    地植えをしても構いませんが、やや寒さに弱いので鉢植えで楽しんでほしいものです。
  • 水やり:水を好みます。土の表面が乾き始めたらタップリと与えます。
  • 肥料:開花中は必要ありません。花後、4月~9月まで化成肥料を置き肥します。
  • 剪定:咲き終わった花は、花首からカットします。また花が咲き終わったら全体を剪定します。7月下旬には花芽分化しますので、その前には済ませておきましょう。
    真夏は風通しのよい半日陰に置きます。
    11月下旬になったら室内に取り込み、ガラス越しの日の当たる場所で育てます。3月中旬くらいか4月に開花します。
  • 植替え:花後の5月くらいに行います。酸性土壌を好みますので、培養土(手持ちの用土でOK)に無調整のピートモスを3割ほど加えると良いでしょう。根が詰まると夏場に水切れしやすくなるので毎年行うのが良いでしょう。
    株全体の土を落として植替えます。
  • 増やし方:挿し木です。花が咲くまで2年ほどかかりますが、容易にできます。5月ごろに剪定した際の枝を使うと良いですね。
    挿し木の適期は5月~梅雨時期です。挿し穂は10cmくらいで下の葉は取り除き30分ほど水につけます。発根促進剤をつけて、用土は鹿沼土小粒に挿すと良いです。
    明るい日陰に置き、用土を乾かさないように管理します。2か月ほどで発根します。秋になったら日当たりのよい所に置いて肥料を与えます。 冬は室内の日当たりのよい所で越冬させます。
    翌年4月以降に4~5号鉢に植え替えます。同時に全体を摘心しておくと枝数が増えます。

 アザレアは花の大きさも比較的大きく、満開時期は鉢や緑の葉が隠れてしまうほど花を付けます。ツツジ類の中でも多彩な花色と花姿には、「垢抜けした美しさ」があります。鉢花として人気な理由がわかります。見かけたら、是非、手にとってみてほしいものです。
 

 今回は「ツツジ類」という同じ仲間を紹介しました。姿形は似ていますが、異なる個体がそれぞれ面白い花木だと思います。
 これから花時期になります。何気なく見ていた花木を今年は観察してみてはいかがでしょうか。ツツジ類が咲き始めると季節は春の終わりを迎えます。



 2月に入りコロナウイルスの感染拡大予防のため、さまざまな行事やイベントが自粛されています。
「桜の花見」も今年は静かに過ごされた方も多かったかもしれません。
でもね。本来の「花見」は、貴族が「自宅の庭に咲いた花を楽しんでいた」ことが始まりです。「身近な友人とのホームパーティー」ってところですね。

 コロナウイルスはいつ終息するのか~不安はありますが、怖がっていてもストレスが溜まります。
 人混みは避けて、暖かい日差しの中散策しながら近くの公園でツツジや花の咲いている植物、新緑を楽しむのもいいかもしれませんね。
 帰ったら、手洗い、うがいはお忘れなく!

(2020/04/01掲載) 

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