「月に一度、丘の上の食パンビルは夜学になる。」
 月に一度、丘の上の食パンビルは夜学になる。
水野教室 北九州緑化協会の2階で、水野会長指導によるビオトープ講座が開かれるからだ。(私はひそかに「水野教室」と呼んでいる)  会長には一昨年来2年に亘りご指導を受けてきた。受講生は約30名、社長さんから現場の作業員さんや事務員さんまで、午後6時からの2時間余り講義に耳を傾ける。テキストは手作りの100ページ以上にわたるもので、ほかに環境関連法令集(条約も含め50以上)や過去問題集など、関係資料もそのつど配布される。いったい何時これだけのものを作られるのかと、本当に感心させられる。

 ビオトープ管理士資格試験は、計画管理と施工管理の2部門で、それぞれ1級と2級に分かれている。受験項目は、たとえば2級では生態学・ビオトープ論・環境関連法・ビオトープ施工(計画)管理・小論文に大別されるが、その範囲は多岐に亘っている。
 例えば、施工管理の問題では、トンボの種類と生息環境の組み合わせを問う問題で
  問1 @抽水植物の繁茂した開放的な池沼には、セスジイトトンボ、
      ウチワヤンマ、ギンヤンマ、マルタンヤンマが生息する。
     A浮葉植物が繁茂した開放的な池沼には、オオイトトンボ、
      オツネントンボ、アオイトトンボ、チョウトンボが生息する。
     B木陰の多い開放水面のある池沼には・・・
     C樹林内の小さい池沼には・・・、
     D・・・・
と、以下生息環境と聞いたこともないトンボの名前が列挙され、「この中から正しい組み合わせを選べ。」といった具合である。

 「なんだぁ、このオタッキーな問題は?」 初めて見たときは思わず目を剥いたが、会長によると日本は古来「秋津島」と呼ばれ、秋津とはトンボを指す言葉らしい。日本はトンボの種類の多さでも知られ、生物多様性の指標として活用されているとのことだ。先進国の中でも日本は生物多様性に富んだ国で、例えばイギリスに比べると生物の数は一桁ぐらいの違いがあるらしい。
 日本と欧米との生物多様性の比較をした場合、気候の違いもさることながら、八千万の神とか山川草木悉皆成仏といった汎神論的な日本の文化と、一神教で自然も造物主の賜物であるとして、人為による改変を是とした欧米の文化の違いもその背景にはあるようだ。講義はその辺にもちゃんと触れていて、この「水野教室」の面白さはそんなところにもあると思う。

 先日終わった試験のことを考えると正直気が重いが、月に一度の講義は実に有意義な時間であった。一つ一つが腑に落ちるのである。(とはいうものの受講中に舟をこいだことは一再ならず、この場をお借りしてお詫びしておかねばなるまい(汗))  例えば、里地里山の二次自然がいかに重要であるか今更ながらに注目されているが、これなどはまさに中山間地にすむ私にとって、汗水たらして百姓仕事をしてきた父祖たちの営みが、いかに皆さんのお役に立っていたかと、少々誇らしい気持ちにもなれるのである。

 今日、「地球環境問題は人類の存続のために先進国・開発途上国にとって共通の課題である」という認識が、国際社会に定着しつつある。1992年ブラジルで開催された「地球サミット」を契機に、将来世代のことを考えて、環境や資源を長持ちさせる形で利用するという「持続可能な開発」という考えの下、各国で取り組みが進められることになった。日本でも環境に配慮した法整備が行われるなど、公共事業でもあきらかに「その方向」での事業が増えてくると思われる。であればこそ、ビオトープ管理士の勉強を通じて、生態系や生物多様性の勉強をすることは、本来自然との調和・共生を意識した業種である造園業に力を与えるものだと思う。

夜学中 冒頭に「夜学」と書いた。この言葉には、目標に対するひたむきさ、一体感とか向上心とか、はたまた教室に流れる静謐な空気、といったものまでもが含まれるような気がする。その点でもこのビオトープ講座は私にとって「夜学」であった。
 夜学を通じて、西部地区の協会員の皆さん(特に若い人が多いのでびっくりした)とも顔見知りになれたことは嬉しかった。また、水野会長をはじめ先輩方に気取りがなくて、「一緒にやろうぜ」と言った暖かい雰囲気を作り出していただいたことには、いくら感謝してもしきれないくらいである。
 そして最後に、やや陳腐な言い方で結ぶのは照れ臭いが・・・「こうした一体感って、やっぱり素敵だな」と感じた次第である。
上田 達也
 <北九州東部緑地管理(株)>
(09/10/22掲載)
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