ツツジ、サツキ類
 風薫る五月。4月になっても中々暖かくならない状態から、やっと初夏らしくなってきました。
 これからは、グングン気温が上がり暑い季節の到来です。
 1年で一番安定していて、すごし易い季節ですね。
 
 今回は、晩春から初夏に公園や街路樹、庭園等を見事に彩るツツジ、サツキ類をご紹介します。
 あたり一面を飾るツツジ類は4月〜5月に開花、同じ時期に咲く花木とは異なった華やかさがある低木類です。
 古くから日本全国に自生し、私たちにはもっとも馴染みの深い植物ですね。
 「ツツジ」とは単一の植物名ではなく、ツツジ科・ツツジ属の総称で、皆さんがよくご存知のヒラド、オオムラサキ、ヨドガワ、クルメ、キリシマ・・・挙げるときりがないくらい沢山の種類があります。
 ツツジ属はその殆どが常緑で一部落葉のものがあります。
 花は漏斗状の独特な形で5枚の花びら、枝の先端に複数付けます。
 日本では古くから園芸品種として、交配し美しい品種がたくさん生まれています。

 万葉の時代(7〜8世紀頃)からツツジは登場します。
 名前の由来は定かではありませんが、花が枝先に次から次へと連なって咲く事から「つづき咲き」、花が筒状(漏斗状)なので「筒咲き」が変化したとの説があります。
 その時代はサクラと同様に好まれ、「枕草子」にも庭木として記載されていて、野山から平安貴族の庭へ移植され、観賞されるようになりました。
 また、平安中期、ツツジに「躑躅」という漢字が使われ始め、中国原産の羊躑躅(シナレンゲツツジ)という猛毒植物の名に由来し、羊が花を食べて苦しみ死んでしまった事から、国内のツツジは全て猛毒があると信じられていました。
 以後、江戸時代までツツジは有毒植物として扱われていましたが、実際は日本のツツジの中ではレンゲツツジのみが有毒植物です。
 ツツジの全盛期は江戸・元禄時代。「元禄の躑躅」と呼ばれ、品種改良数も百を越えるようになります。
 中でも薩摩(現在の鹿児島県)からキリシマツツジが導入され、染井村(ソメイヨシノの発祥)で品種改良され全国へと広がり、現在でもキリシマツツジはエドツツジとも呼ばれています。

キリシマツツジ
学名:Rhododendron×obtusum 
別名:エドツツジ
花びらに光沢があり、小ぶりの花を付けます。
 この写真は兵庫県の一宮神社の神殿正面です。
 両サイドの赤く咲く花がキリシマツツジだそうです。まるでモミジの紅葉を思わせる様ですね。
樹高が3〜4m程、低木も育つと高木になるようです。必見ですね。
(兵庫県丹波市一ノ宮神社より)
 品種改良が進み、園芸品種が数多く作られましたが、とりわけ、クルメツツジやヒラドツツジは世界的にも有名です。
 クルメツツジは江戸末期、久留米藩でキリシマツツジとサタツツジの交配によって誕生しました。(ツツジ類の中からの自然交配、との記載もある。キリシマツツジ=クルメツツジともあります)
 一時期は「お留花」(オトメバナ・門外不出)とされたほど素晴らしい品種が生まれたそうです。

 花は小ぶりでサツキに似ていますが、葉が大きく咲く季節が異なります。
 1900年初頭にアメリカに紹介されたのを機に、欧米全体に庭木として広まりました。

クルメツツジ 常夏

春の里

クルメツツジ オレンジ色
 一方江戸時代、南蛮貿易で知られる長崎県平戸に、海外からの珍品とともに沖縄のケラマツツジや中国のタイワンヤマツツジなどが渡来し、武家屋敷の庭に植えられ、さらに改良が加えられ選抜された中の一つがヒラドツツジです。
 ヒラドツツジは皆さんもよくご存知でしょう。
学名:Rhododendron×pulchrum 別名:リュウキュウツツジ 常緑の広葉樹。
ヒラドツツジ (植物図鑑参照)
 大型の花を咲かせ、街路樹など広い用途で使われます。
長崎県平戸市で栽培された事が名前の由来なのは有名ですね。モチツツジとキシツツジ、ケラマツツジなどとの自然交配の中から誕生しました。
 自然交配による「偶然」とはいえ、世界に誇れる品種なのですよ。

 ツツジ類の中で5月〜6月にかけて咲き出すのが「さつき」です。
 5月ごろから開花するので「サツキ」と呼ばれ、ツツジ類とは区別されています。
 一般に、ツツジ類は新芽の展開前もしくは展開時に開花しますが、サツキは新芽が伸びてから開花するので開花時期が異なるのです。
 植物学上はツツジの一種で、正式には「サツキツツジ」と呼ばれます。
 学名:Rhododendron indicum 山奥の岩肌などに自生し、盆栽としても親しまれています。
岩肌に自生するサツキツツジ。
朱赤が基本の色。(植物図鑑参照)

 ツツジ類としては葉が固くて小さく、茎は這う性質が強いとされています。
 元々、岩肌や渓流沿いなどに自生していたので、増水などに耐えられるよう、低い形で育成したとも言われています。
 また、棚田の石垣の間にも生える事があり、石の間にも根を下ろす程、強い性質を持っているようです。
 品種改良はツツジ類と同じ時期に行われ、百を越える品種が誕生しています。
 その後、九州南部、屋久島などに自生するマルバサツキなどとの交配や、近年では、ツツジ属のアザレアとの交配で大輪系品種も誕生しています。
サツキツツジ
 サツキツツジは街路樹や庭園の生垣などの植え込みなど、国内では最も多く用いられている低木だという統計もあるそうです。
 また、盆栽の愛好家も多く、これからの季節は様々な場所で展示会を目にする事があると思います。
 たまには街路樹ではない、「盆栽」観賞もいいですね。
 最後にツツジ類で、鉢物で見かける「アザレア」をご紹介します。
 アザレア 学名:Rhododendro Bergian Azalea Hybrids
 別名:セイヨウツツジ   日本から(中国・台湾などからも)渡欧したツツジ類の品種改良で生まれたのがアザレア(セイヨウツツジの総称)です。
 ベルギーを中心にヨーロッパ各地へ広がり、ヤマツツジを基本に室内観賞用として改良されたと言われています。
 開花は10月〜4月くらいで花びらがバラのように咲きます。また、色合いもピンクを中心に白、ローズ、赤、しぼり、など様々です。
 葉はツツジ類と似ていますが、少し小ぶりでしょうか。
 寒さに弱いですが、九州では南向きの暖かい場所であれば、多分、地植えも可能だと思います。(すみません、植えた事がないので・・・)
 ツツジ、サツキ類はコンテナやハンギングの素材として使用し難いですが、アザレアは、花の形や大きさ、色合いなど豊富でエレガントですので一度お使いになってみては如何でしょう。
 素敵な取り合いになります。もちろんツツジ、サツキ類は生け花では矍鑠(かくしゃく)として、豪華な雰囲気になりますよ。

 今回はツツジ、サツキ類を取り上げました。
 ツツジ属は他にまだまだ沢山あります。
 ドウダンツツジや山野に咲く穂つつじ、コヨウラクツツジ、イソツツジ、ウラシマツツジ等‥
 未だに、ツツジ類とサツキ類の判別は出来ても、ごく一部の品種くらいしか分からないのですが、今年はゆっくりと眺め、その違いを楽しんでみたいと思っています。

 それともう一つ。ツツジ類の花びらをよく見ると、5枚の花びらの一部のみに細かい斑点があります。
 これは、花が実を結ぶため虫の助けを必要とします。ツツジ類は斑点のある花びらの奥だけに蜜があり、虫はこの斑点を目印に寄ってくるのです。
 その昔は子供達にとって、この蜜は数少ない甘味料であったようですが、レンゲツツジなどの有毒を持っている物もあります。
他の種類であっても、決して蜜は吸わないでくださいね。

御園 和穂  

(11/05/01掲載)  

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