ユリ
 そろそろ梅雨入りですね。
 今年の梅雨は例年より長くなりそうだとの予報を聞いています。
 植替えも一段落し、「晴れ」が続くと灌水に追われ、「雨」が続くとホッとする反面、蒸れや傷みに心配りをしなくてはなりません。
 休む間のない「管理」を痛感する季節です。
 汗をかきながら頑張りましょう!

 『立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花』
 女性を形容する代表的な言葉ですが、今回は形容されている「ユリ」をご紹介します。
 ユリ 学名:Lilium L. 和名:ユリ 英名:Lily 球根植物
 誰もが知っていて、最も清楚で気品のある花はユリだと私は思っています。
昔から形容までされ、それだけユリの花が身近な花であった事が伺われます。

 まずは、ユリの歴史から少しお話しましょう。
 ユリは北半球に自生し、北アメリカに約25種、ヨーロッパに約12種、アジアに約59種、うち日本に自生している物が15種あります。野山を歩けば、オニユリやヤマユリに遭遇できます。


←ヤマユリ   ↑オニユリ
見かけた事があると思います。(写真:植物図鑑参照)
 日本の書物に「ユリ」が登場するのは『古事記』が最初だとされています。
 当初は食用として用いられていたようですが、室町時代に入ってから鑑賞用として楽しんでいたようです。
 江戸時代に入ってからは一般庶民は庭先で楽しみ、その後シーボルトによってヨーロッパへ渡り、日本のユリが親になり品種改良が進んだ物も多いようです。
 西洋のユリはマドンナ・リリーから始まります。
←マドンナ・リリー(写真:植物図鑑参照)
「白ユリ」と呼ばれていましたが、他のユリと区別するため、マドンナ・リリーと名づけられたそうです。
 また、最も美しい花であり「神聖な植物」としてローマ法王の庭にも植えられたとされています。
また、名画「受胎告知」の中でも登場します。
 ボッティチェリの「受胎告知」
左手のユリがマドンナ・リリー
(ボッティチェリの作品にはユリがよく描かれてます)
ダビンチなども描いています。
 マドンナ・リリーは1596年にイギリスへ渡ります。
 歴史を見ると、様々な場面で、そして世界中で愛されている特別な存在の花である事がわかります。
 世界のユリの品種は、1964年に英国王立園芸協会が国際ユリ登録簿に発表した園芸分類で、8種類のグループに分けられます。
 その中で日本のユリが親になっている品種を挙げてみましょう。
まずは、「アジアンティックハイブリット」。
 日本でも江戸時代にイワトユリなどから交雑によってスカシユリなどの園芸品種が作出され、その後、中国産のユリやヨーロッパのオレンジリリーを元に改良された園芸品種のグループを「アジアンティック」と呼びます。
 1960年代まではユリと言えば、オレンジや黄色が主流で、70年代に入り、マツバユリやその変種からピンクや白系の品種が生まれ、多彩になります。

イワトユリ

マツバユリ

オレンジリリー
レガッタオレンジ ソルベット ポリアナ・ジェル
 アジアンティック系の一部ですが、色合いがはっきりしていて、エキゾチックな雰囲気をだしています。匂いはありませんが、カラフルで庭植えや花壇植えに映えます。 また、最近では花びらの中央にある斑点も少なくなってきているようです。
 
 次の代表作は「オリエンタルハイブリット」。
 日本には15種が自生しています。そのうち7種を交雑させ作られた品種を「オリエンタル」または「ジャパニーズハイブリット」と呼びます。

サクユリ、カノコユリ
(写真:植物図鑑参照)
7種の中から一部ご紹介します。
ヤマユリは香りも強く、直径25cm程度の花を咲かせます。サクユリはユリ属の中でも最大級で30cm程度の花を咲かせます。ヤマユリと似ていますが、花びらに斑点がありません。(ヤマユリは冒頭の写真参照)
 カノコユリは名前の通り「鹿の子」の模様に似た斑点が入り、花が反り返ったように咲きます。
 その他オトメユリ、ササユリ、シロカノコユリ、ヤマユリ(赤筋)が親になっています。
 日本固有種から作られたユリは、花が大きく、香りが強いのが特徴です。花色はピンク、白、赤などで、毎年沢山の品種が作られています。
カサブランカ マルコポーロ ル・ブーレ
 有名な「カサブランカ」もサクユリが親で交配し作られた物なのですよ。
 その他の分類として、
「マルタゴンハイブリット」  ヨーロッパからシベリア周辺の自生種とタケシマユリ、日本のクルマユリなどの交雑で生まれたもので、高温多湿の日本ではあまり栽培はされていないようです。
「ロンギフロールムハイブリッド」  日本のテッポウユリと台湾のタカサゴユリの交雑で白が中心で香りがあり筒型です。
「オーリアンハイブリット」  中国自生のキカノコユリ、リーガルリリーとの交雑で生まれ、花色も花形も豊富にあります。
「マドンナリリーハイブリット」  マドンナ・リリーなど、ヨーロッパ自生種の交雑で生まれたもので、日本では殆ど栽培されていません。
「アメリカンハイブリット」  北アメリカに自生するユリだけでの交雑された品種です。
「その他のハイブリット」  近年、特殊な交配やバイオ技術によって、系統の異なる品種、ニュータイプが誕生しています。
ニュータイプの中から国や街の名前にちなんだユリがありました。
ニッポン キョート イタリア アカプルコ
 まだまだ沢山あります。さて、皆さんはどんなイメージでユリをご覧になるでしょう。(写真:フルールより参照)

 ユリは花壇、鉢植え、庭植えにと様々な用途があります。
 花壇や庭植えでは、背の高さや色合いを見ながら季節のポイントとして、また球根植物なので、植替えも暫くは必要なく、毎年楽しむ事ができます。鉢植えの場合でも大型のコンテナを使えば、ゴージャスなコンテナになりますね。
 花壇や庭植えでアジサイやアスチルベなどと合せ、スカシユリを使うと初夏のガーデンが出来上がります。
 1年草の花壇も素敵ですが、管理が大変なこともあります。そこで、宿根草や球根類を使う事でさらに幅が広がりますね。
 友人からユリを扱う際のアドバイスを受けました。
 ユリは切花の場合、花粉が衣服についてしまうので、アレンジをする際、花粉の部分を取り除きます。
←カサブランカのアレンジメントですが、中央の花粉部分(筋に見える先に花粉がついていた)が取り除かれています。
 花壇などで使用する際は、汚れるからと花粉を取除く事はしません。
花の花粉まで気にした事なかったのですが、『"花粉の色"もデザインの一つにしてみて』とアドバイスをもらいました。
悪い例 良い例 例えば
ユリとマーガレットの植込みの場合。(ユリの花粉は黄色です)
悪い例:マーガレットの一重の中にユリが入ると、一重の黄色が目だってしまいユリそのものも存在感が無くなってしまいます。
良い例:マーガレットの八重の中にユリが入ると、ユリと花粉部分の黄色が引立ち、存在感が増します。
 ほんのちょっとした事なのですが、「なるほど」です。(写真:花ぐらしより参照)
気づきにくい点ですが、これからは参考になりますね。
 今年の植付けには間に合いませんが、秋に準備をして、来年の初夏の為に花壇のアレンジしてみるつもりです。
 そう。開花の早いスカシユリやアジアンティック系、テッポウユリなどは8月末から9月末までに購入し、10月に植付けを完了します。
 カノコユリやオリエンタル系などは10月に購入し、11月一杯に植えつけます。球根購入後、出来るだけ早く植えつけてください。すぐ植付けが出来ない場合は購入時の状態を保って球根を乾燥させないでください。生育が悪くなってしまします。
 アジアンティック系やテッポウユリは日当たりの良い場所を好み、オリエンタル系やカノコユリなどは明るい半日陰を好みます。
 球根を植付ける深さは、球根の大きさの3倍程度の深さ、横は2〜3個程度離して植付けましょう。
 球根を、あちらこちらに分散して植付けるのも良いですが、まとめて植付けてボリュウム感を出すのも良いですね。

 ユリは観賞用のみならず、食用としても親しまれています。
 百合根(コオニユリの球根など)は、姿煮にしたり、茶碗蒸しやきんとんに使われます。
 また、食べる事による薬効かもしれませんが、身体を丈夫にし、病気に対する抵抗力を高める食材とも言われています。
 少し値段の高いイメージの百合根ですが、ポテトサラダのポテトの代わりやグラタン、スープなど、癖のない味なので馴染みます。
 冬の食材ですから、今年は試してみたいです。

 ユリは身近にありながら意外と知らない事の多い植物です。
 季節限定の植物だからこそ「使ってみたい」リストに挙げてみては如何でしょうか。(植付けている方は他の種類に挑戦です)
 今年は他所で観賞させて頂き、来年は自分の所でも楽しんでみませんか!


御園 和穂  

(11/06/01掲載)  

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