樹木医からの一言(1)
古代文明から学ぶこと
「なぜ自然を守るか」という問いに対しては、古代文明の繁栄と衰退がそれを物語っている。
現在のイラクにあたる地域に栄えたシュメール文明は、チグリス川及びユーフラテス川流域の洪水多発地帯で興り、紀元前3500年頃から都市国家が成立していたといわれている。メソポタミアを繁栄に導いたのは、洪水によってもたらされた肥沃な大地とその背景にある豊かな森林が支える農業力にあった。しかし、人口が増えるにしたがい、農地や居住地を求めて人々は、森林を伐採していった。大規模な森林の開拓が土壌の荒廃と侵食を招き、気候を乾燥化させた。乾燥化が進む状況下で灌漑を続けた結果、土壌に塩類が集積し、作物が育たなくなる塩害が発生した。紀元前2000年頃には、大麦の収穫量が極めて減少し、この時期を最後にシュメール文明は滅亡した。
古来、繁栄した文明の多くは、豊かな森林地帯と豊富な水資源を背景に発展しながら、人口の増加によるバランスを超えた過剰な自然資源の搾取により、健全な生態系を喪失させた。生態系の崩壊とともに文明自体も衰退の道を辿っている。
このような過去の文明の繁栄と衰退は、人類の社会がどれだけ自然環境に依存しているかということだけでなく、自然環境が回復不可能なまでに破壊されたとき、文明は自然環境とともに滅びるということを示唆している。
今日、人口爆発、温暖化、オゾンホール、酸性雨などのさまざまな地球環境の問題が表面化している中、今までのような経済活動を継続していけば、環境へ多大な悪影響を与え続けていくことになる。健全な生態系を失うことは、子孫の未来を奪うことに等しいのである。