寒中の四花
 暦の上では立春を迎え「春」が始まるような気配です、実際は寒さが一番厳し時期です。
 二月の事を「如月」(キサラギ)と呼びます。これは、着物をたくさん重ねて着る事を「衣更着」(キサラギ)言い、そう呼ばれるようになったとも。(由来は様々ですが) ともかく、もう暫くは寒い日が続きそうです。

 今回は、そんな寒い中に花咲く植物をご紹介します。
 蝋梅(ロウバイ)、水仙(スイセン)、梅(ウメ)、寒椿(カンツバキ)の四種類は、寒い季節、雪の中でもめげる事なく花を咲かせます。
 この四種類の植物を「寒中の四花」と呼びます。
花の少ない寒い時期、12月の終わりもしくは1月の初めから咲き始めるロウバイ、その後スイセンが咲き、ウメと続き、最後にゆっくりツバキが花を開く頃、「春」が訪れます。
まずはロウバイから。
ロウバイ 学名:Chimonanthus praecox ロウバイ科 原産地:中国
      和名:ロウバイ 別名:カラウメ(唐梅) 英名:Winter sweet
 12月下旬もしくは1月初めから2月に黄色い花を付ける落葉広葉低木。
 よく目にするのはソシンロウバイ(素心蝋梅)と言われ花全体が黄色い花を付ける栽培品種で、ロウバイは花の中央が少し暗赤で花びらが黄色い花を付けます。(写真:図鑑参照)

ロウバイ

ソシンロウバイ

ロウバイの葉と花芽です。
 秋から冬の剪定で、個人のお宅に行くと見かけます。
 12月の下旬もしくは1月から開花しますが、一度に落葉しないので、花を咲かせながら葉を落としたりもします。
 学名はChimonathusキモナンサス(チモナンサス)と読み、ギリシャ語で「冬の花」を意味します。
 冬場の花の少ない時期に咲く素敵な花ですね。
 名前の由来は、17世紀頃中国から渡来し、唐(以前の中国)から来た「梅によく似た花」から「唐梅」と呼ばれ、中国名も「蝋梅」であった事からそのまま呼ばれるようになったとか、花弁が蝋のような質感で、尚且つ開花時期が蝋月(ロウゲツ:旧暦の12月の事)に咲く事からその名が付いたといわれています。
 栽培は、土壌をあまり選ばず、日陰でもよく育ち開花する丈夫な花木です。
 繁殖は基本接ぎ木ですが、実生からも容易に苗が出来ます。秋口に、樹木に付いている実を採取して播いてみるのも良いかも知れません。
 寒さに合わせるとよく発芽するらしいので、今年の秋にお試しあれ!
 大きい株や古い株の移植は難しいようです。
 
 ロウバイの次の開花がスイセンです。
スイセン 学名:Narcissus tazetta var. chinensis(日本スイセン)
      ひがんばな科スイセン属の多年草  原産地:地中海沿岸

      別名:金盞銀台(キンサンギンダイ)、ナーシサス、ダッフォディルなど                   (ダッフォディルの呼び方はラッパスイセンなど)
 寒さに耐えながら、リンっとした姿で花を咲かせ、なんとも日本的な雰囲気を漂わせていますが、実は地中海沿岸の原産で平安時代に中国経由で渡来してきたといわれています。
 また、スイセンの群生地として福井県の越前海岸が有名ですが、中国から暖流にのって球根が流され、海岸線沿いに流れ着き、根を下ろしたとも言われています。
 どちらにしてもヨーロッパで生まれ、海を渡ってやってきた美しい花です。
 もともとヨーロッパ生まれですが、多くの種が分布する地中海沿岸の人々に「希望と喜びの花」として親しまれ、栽培も盛んに行われてきました。
 その始まりは古代ギリシヤ・ローマ時代までさかのぼるようです。
 学名のNarcissus(ナルキッソス)、別名のナーシサスの語源はギリシア神話に登場するナルキッソスからきているそうです。
  こんなお話…
    ギリシヤの美少年ナルキッソスに恋をしたエコー(こだま)。
    しかし、ナルキッソスはエコーを騙し、最後には捨ててしまう。
    失意のエコーは姿が無くなり声だけになってしまった。
    哀れに思った復讐の女神ネメシスによって、ナルキッソスは
    水面に写る自分の姿に恋をすることに。
    自分自身に恋焦がれ美少年は水辺で息絶え、その亡骸からスイセンが生まれた。
  というお話です。
 紀元前から栽培が進み、現在に至っている歴史の長さに、ただただ驚きです。
 この日本的な花は、新春の生け花や茶花としても多く使われています。
 キズイセンは江戸時代末期にオランダ人が長崎の出島に持ちこんだらしい。
 その後ラッパスイセンや口紅スイセンが明治以降に紹介されました。
 今ではたくさんの園芸品種を楽しむ事ができます。
 日本スイセンはその姿かたちはとても地味ですが、日本人には一番親しまれているスイセンのような気がします。
 首を軽く折るように少しうつむき加減で花を咲かせるスイセンは、私たちに何か耳打ちをしているのでしょうか。

 スイセンの次の開花がウメです。
ウメ 学名:Prunus mume  バラ科サクラ属の落葉高木
    別名:好文木(コウブンボク)、春告草(ハルツゲグサ)、匂草(ニオイクサ)など
 ウメは、この季節の「花」や「花木」として取り上げることが多い植物だと思います。何度でも話したくなる植物の一つのようです。
 その昔、遣唐使や遣隋使によって中国からやってきたウメの木。
 当時のウメは真っ白な花だったと記録に残っています。(万葉700年頃)
 清楚で気品のある姿はなんとも言えず日本的なイメージなのですが。
 その当時は、中国的文化趣味が流行し「白梅」は唐文化の象徴であったようで、競ってウメを植え、「白梅」を讃える歌も多く残っています。
 平安時代に入ると、艶やかな「紅梅」が好まれたようで、枕草子や源氏物語などにも登場しています。
 平安中期、ウメをこよなく愛し邸宅を「紅梅殿」とまで呼ばれた菅原道真。
 偽りの訴えで大宰府へ左遷された道真を慕い、一枝が飛んできたという「飛梅」伝説は有名です。
 伝説とはいえ、素敵なお話です。

花札:ウメに鶯
 前号の「松竹梅」の中でも触れましたが、「吉祥慶賀」を象徴する花木でもあり、公家や武家が好んだものが、江戸時代に大衆化し庶民の暮らしの中にも広がったようです。花札の絵柄になっている事からも親しまれていたのでしょう。
 花も楽しめますが、実ウメとして、薬用として親しまれています。
 ウメが咲き始めると、まだ寒いのだけれども「東風」が吹き、どこか春を感じます。この風、「梅東風」(ウメゴチ)とも呼ばれています。
 これから雨も多い時期になります。一雨ごとに春が近づいてきますね。
 
 寒中の四花、最後はツバキです。
ツバキ 学名:Camellia japonica  ツバキ科ツバキ属 常緑中高木
     和名:ヤブツバキ
     原産地:日本(はっきりとした記述は残っていない)
        中国にも野生種がある
 ツバキは「いつ咲くのかな?」と時期を聞かれると以外に迷ってしまいますが、ツバキ=ヤブツバキ。晩冬から初春にかけての開花になります。
※現在は、園芸種等多くの種類があるので11月〜4月くらいが開花の範囲になります。
 今でこそ一般的なツバキですが、古くは鑑賞樹というよりは、神木として霊力を持つ樹木(冬になっても葉が落ちない事から)として崇められていたそうです。
 漢字で書くと「椿」、「木」偏に「春」と書いてツバキと読みます。
 厳しい寒さを耐えて咲き続け、春を迎える喜びを表すもっともぴったりな組み合わせだったのでしょう。
 神木から鑑賞の対象になったのは鎌倉時代に入ってからの事だったようです。
 中国から「禅」の影響を受け茶道や華道が流行り、庭つくりが盛んに行われるようになった事で公家や武士、僧侶などに「ツバキ」が多く知られるようになったようです。
 また、茶の世界では、ツバキ一輪の花でも存在が強く華美に流されない、物静かな姿が「侘び」という感覚に合ったのでしょう。今でも、茶花として「ツバキ」は欠かせません。
 日本原産の花木として、18世紀には中国に渡り、ヨーロッパからアメリカ、オーストラリアなどに伝わり、新品種が多く生まれ、戦後、艶やかな外国生まれのツバキが日本へ帰ってきました。
 19世紀前半にはブームが起こり、ヨーロッパ最大のコレクター(イタリアの修道院長ロレンツウォ)による「ツバキ図鑑」で品種の紹介や、フランスの小説家デュマの「椿姫」も影響を受けていると言われています。
 現在では愛好家によって、さらに品種改良を重ね、様々な美しいツバキが登場しています。
 ツバキは世界中で改良されてきましたが、花色は赤、ピンク、白、斑入りに絞りなどです。
 1980年に黄色いツバキ「キンカチャ」が日本に導入され、その後、品種改良を進めていますが、まだまだ発展途上のようです。
 「ツバキ」は花びらが一枚ずつ落ちるタイプではなく、花弁が雄しべと共に落ちてしまいます。お見舞いなどには不向きの花ですが、落ちやすい花首も水に浮かべたり、盆にのせたり楽しみ方も様々なようです。


 「寒中の四花」如何だったでしょうか。
 とても身近な植物です。厳しい寒さに耐えながらも、その季節が来たら「花」を咲かせます。
 当たり前の事なのでしょうが、植物のもつ生命力の強さに今更ながら感嘆させられます。
 また、植物の歴史や背景を少し知ると見方が変わるかもしれません。
 外は寒いけれど、「寒中の四花」を探して、観賞してみませんか。
 ロウバイ、まだ咲いているかも知れません。

 そろそろ春の気配が・・・。季節の変わり目です。風邪など引かれませんよう!

御園 和穂  

(12/02/01掲載)  

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