春を先取り、球根植物
 三月、春の音が聞こえてきました。
 二月は例年になく厳しい寒さでした。低温が続き、植物も傷みがでたのではありませんか?
 旧暦の「弥生」は、もともと「草木弥生月」(クサキイヤオイツキ)を略した言葉で、
「ますます」とか「いよいよ」を意味する「弥」(イヤ)と「生い茂る」意味を持つ「生」(オイ)が合わさり、植物などが生長する時期なので、「弥生」と名づけられたと言われています。
 低音で傷みが出た植物も、枯れていなければ新しい芽を吹き始めます。
 本格的な春が目の前ですね。

 今回は春一番に咲き始める球根植物等を紹介します。
 まずは、ヒヤシンスからご紹介します。
 ヒヤシンス 学名:Hyacinthus orientalis L. 和名:ヒヤシンス
ユリ科の球根性多年草。 秋植球根で花壇や鉢植え、水耕栽培などで鑑賞されます。

ダッチ・ヒヤシンスタイプ


ローマン・ヒヤシンスタイプ
 早春の球根は沢山ありますが、これほどに香りのよい存在感のある花はヒヤシンス以外にはないでしょう。優雅な花姿、香りの良さからでしょうか、神話や聖書の中にも登場します。
 皆さんもアダムとイブの話はご存知だと思いますが、彼らの寝床にもヒヤシンスが咲き乱れていたそうです。
 地中海東部沿岸からイラン、トルクメニスタン付近が原産地で、オスマン帝国の頃にはすでに栽培され園芸化されたと云われています。
 16世紀前半にはヨーロッパに伝わりイタリアで栽培され、16世紀末にはイギリスに渡ります。
 当時のトルコからはチューリップ(2008年11月掲載)やユリなど数々の植物がヨーロッパへ伝えられ、そのルートをたどったと言われています。
 ヨーロッパへ渡ったヒヤシンスは更に品種改良が加えられ、大きく二つの系統に分かれます。主にオランダでの改良がダッチ・ヒアシンス。
 フランスでの改良がローマン・ヒヤシンスと言います。
 ダッチタイプは花も花房も多く、鑑賞性も高く、18世紀にはイギリスを中心に大人気となります。ローマンタイプは花が少ないですが強健。
 現在、私たちが楽しんでいるタイプはダッチタイプが主流です。
 ヒアシンスが日本に伝わったのは江戸時代の末期で、明治時代の植物書物には「飛信子」「風信子」などと記載され、大正時代に入ってから、日本でも栽培が行われるようになったと言われています。
 イギリスを中心に2000種以上の園芸品種が生まれましたが、花色が沢山ある割には姿形は変化が少なかったため、20世紀初頭には自然淘汰され、現在オランダなどで選りすぐりの品種約70種程度栽培され、世界各地へ輸出されています。
 花は一重咲きが主流ですが、八重咲きもあり、花は中央の花茎を伸ばし、漏斗状の花を多数つけます。花色も赤・ピンク・黄・白・橙色など豊富に揃っています。
 花が咲き終わった母球は毎年肥大します。
 日当たりのよい場所を好み、根は30cmくらい伸びますので植付け時は深く耕しましょう。花は咲き終わった後、そのまま放置しておくと種が出来てしまい、球根が弱ってしまうので花柄摘みを行いましょう。
 また連作を嫌うので、開花後は葉が黄色くなるまで放置し、その後掘上げ日陰で乾燥させ秋口に植付けをします。そのまま植えっぱなしでも問題はありませんが、年々花が少なくなり、3年くらいすると「どこかに植えたのに?」、無くなってしまいます。

 球根類を掘上げて植付ける際、少し困る事は花色が分からなくなる事ですね。
 他の球根類は掘上げて花色が分かるように記録して欲しいのですが、ヒヤシンスは大丈夫。よく球根を見てください。何となく球根の表面が色を帯びています。判断できますね!(上の球根は黄色、下は赤色です)
名前の由来はギリシャ神話の中の物語からきていると言われています。
 ギリシャ神話「ヒヤシンス誕生」のお話。
父(ゼウス)と母(レト)の子供として生まれた双子のアルテミス(月の女神)とアポロン(太陽神)は植物や子供を愛し、アポロンは特にヒュアキントスという青年をパートナーとして、言葉や会話の大切さを教えながら楽しく過ごしていました。
アポロンだけでなく、風のゼフィロスも彼を気に入っていましたが、ヒュアキントスは「北風より光輝く方が好きだ」と、アポロンを好んだため、ゼフィロスは嫉妬に狂い北風を吹き荒れました。
ある日、アポロン達が円盤投げを楽しんでいた時、ゼフィロスは嫌がらせで北風を吹かせ、円盤をとんでもない方向へ飛ばしてしまいました。
その時、たまたま側にいたヒュアキントスの頭に円盤が当たり一瞬のうちに彼は死んでしまいました。
アポロンは嘆き悲しみ、その時に流れた赤い血が「ヒヤシンス」になったというお話です。  

 ヒヤシンスには様々な色がありますが、特に「青」は美しいです。
 パンジー、ビオラ、デージー、プリムラ等の組み合わせもよく合います。
 ヒヤシンスの栽培は、どちらかと言えば小学校の理科の実験で経験した水耕栽培が一般的なのでしょうか?
 沢山植付けて楽しみたい球根の一つですね。
 ただし、個人的な意見としては、「球根が高い」。もう少しお手軽に購入が出来ると嬉しいですが・・・。 球根が高い分、品種にこだわり「お気に入り」を手に入れ、毎年大切の育てたいですね。
 ヒヤシンスの仲間でムスカリがあります。
 ユリ科(分類体系ではヒアシンス科)のムスカリ属。秋植えの球根です。
 ブルーの小さい花を沢山つけますが、この花姿をブドウヒヤシンスと呼ぶ別名を持っています。
 別名ではヒヤシンスの名が付いていますが、生育スタイルは異なり、ムスカリは4〜5年植えたままでも問題のない球根です。

 次の球根はクロッカスです。
  クロッカス 学名:Crocus L. アヤメ科クロッカス属。耐寒性秋植え球根。
別名:春サフラン、花サフラン。
  原産地は地中海沿岸から小アジアに分布します。
 ヨーロッパでは、春一番を告げる花として愛されてきた植物です。
クロッカスは現在80種以上の品種が確認されており、大別すると春咲きと秋咲きに分けられています。
 もともとは薬や料理に使われていた植物で、サフランは実用品として栽培されました。クレタ島の遺跡※の壁画にもサフランが絵柄として描かれており、紀元前15世紀以前から使われていた事が分かります。

春咲くクロッカス

秋に咲くサフラン
 ※クレタ島遺跡
 エーゲ海最大の島。ギリシャ文明発祥の地で、人が住み始めたのが紀元前7000年頃、文明が起こったのは紀元前3000年頃と言われている。 紀元前17世紀頃には世界最高水準のミノア文明が花開き、クレタは栄華を誇った。

 ローマからイギリスに渡り、18世紀にサフラン産業が最盛期になります。
 観賞用のクロッカスは、16世紀頃から親しまれるようになり、日本へは明治中頃に観賞用ではなく薬用植物として入ってきました。
 クロッカスには2つのタイプがあり、 「寒咲きクロッカス」という2月下旬頃から咲き始めるものと「ダッチラージクロッカス」、従来から私達がよく知っているものがあります。
 寒咲きクロッカスの花色は淡色が多く、花はやや小ぶりです。
 ラージクロッカスは、寒咲きに比べると、花びらの先が少し丸くなっています。
芝生の中に咲くクロッカス、スイセン
芝生の中に咲くクロッカス、スイセン 
 クロッカスの使い方として、コンテナや花壇の縁取りなどで楽しめますが、映像や写真で印象的な風景の中にクロッカスが一面に咲いている姿を見かける事があると思います。
 これは人工的に植付けているのですが、芝生の中に埋め込み、自然に生えてきたように見せる手法です。
 日本の高麗芝は落葉するので、3月は芝生が枯れていて茶色に中にクロッカスの花は可愛くありませんが、オーバーシードをしている緑の芝生だととても自然で綺麗にみえます。
 その他では、コンテナにまとめて植付けたり、庭木の足元などでまとめて植え付けて咲かせるととても印象深く演出する事ができます。
 クロッカスの名前の由来もギリシャ神話からなのです。(多説あり)

 ギリシャ神話「クロッカス」のお話。
ヘルメスには美しい婚約者がいました。ある冬の日2人は谷の近くでソリ遊びをしていましたが、急に風が強くなってきたので帰ろうとした時、婚約者をソリに乗せ、ヘルメスが続いてソリに乗り込もうとした時、ソリが谷底へ落ちてしまいました。
ヘルメスは大慌てで谷底まで降りると、ソリはバラバラになり血を流して死んでいる婚約者を見つけます。彼は生き返らせようとしましたが、彼女は永遠に息を吹き返す事はありませんでした。
翌年、ヘルメスがその谷底へ訪れると、婚約者が死んだ場所に可愛らしい花が咲いていました。ヘルメスは婚約者の名を取って「クローカス」→「クロッカス」と名づけたそうです。

「サフラン」は秋が終わろうとする頃、牧場のニンフが現れ、羊たちが野原の草が枯れて悲しんでいると花の女神クローリスに訴えます。
その熱心さに心動かされ、秋の最後に「サフラン」と言う花を咲かせたそうです。

 
 「愛のエピソード」を秘めた花がクロッカスです。
 クロッカスの育て方は、花が終わると葉がいっせいに伸びてきます。
来年の球根を育てる為に、液体肥料もしくは即効性の化成肥料を株元にまいて 球根を太らせます。
 3年くらい植えっぱなしで大丈夫ですが、母球が小さくなって子球が出来てき ますが、開花するまで3年くらいかかるので、出来るなら毎年球根を少しずつ 植え足していく事をお薦めします。
クロッカスの球根
クロッカスの球根
 コンテナは植替え時まで肥料等で管理し、植替え時に掘り上げてください。
 球根は乾燥させて風通しのよい場所で保存して10月以降に植え付けてください。
 余談ですがこの球根芽が出てしまっていますが、何かに似てませんか?
 球根類はその形体によって分類されています。
 植物学上、茎や葉、根などの養分が膨らんで溜まった貯蔵器官の事をさします。
 クロッカスの場合は毛が生えたような姿で球茎(キュウケイ)と言います。
茎が肥大化して球状になったものですが、仲間みはでは夏植え球根のグラジオラスや(野菜では)サトイモ等あります。
 クロッカスの球根を輪切りにするとサトイモと同じようなザラッとした切り口になります。
 最初にあげたヒヤシンスは、鱗茎(リンケイ)と言い、葉が層状にまっており、チューリップや(野菜では)ニンニクやラッキョウが同じ仲間になります。ヒヤシンスやニンニクを輪切りにすると玉ねぎの断面のようになってい ます。ちなみに玉ねぎは球根植物ではなく種から育てる植物です。

 春になると咲く球根はまだまだ沢山あります。
ラッパスイセン、チューリップ、スノードロップ、オーニソガラム、 ラペルージア(姫ヒオウギ)等など、開花が待ち遠しいですね。
 今年は栽培してなくて見る事が出来なくても、今年の秋口に来年の春のため に用意してみませんか。(少し気長すぎでしょうか?)

 2月の寒さがウソのように、暖かくなってきました。
 梅の開花が1週間から10日程遅れました。今年は春が凝縮して沢山の花々を見る事が出来そうですね。
 花を楽しむと同時に花粉も沢山飛んでいるようです。
 花粉症の方には苦痛の季節だと思いますが、マスクをして花も楽しんでください。 少しは気分も晴れると思いますよ。
 最後に、寒い中頑張ってきたパンジーやビオラも今から最盛期を迎えます。3月の気温が上がって来る頃に、液体肥料や化成肥料などを与えて、 元気をつけて美しい花を咲かせましょう。

御園 和穂  

(12/03/01掲載)  

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