樹木医からの一言(11)

 

「マツ枯れ」について その3
        ―穿孔性甲虫類と樹木―

・ 一次性害虫のあるグループは樹木の抵抗性を打破
  するため、多数の成虫が同時に樹幹の特定の部位
  を集中攻撃する「マスアタック」という戦略を発達
  させた。マスアタックを可能にしているのが集合
  フェロモンという信号物質である。

・ マスアタックを受けると、樹木の方では防御用の
  樹脂が枯渇してしまい抵抗力を失うので、キクイ
  ムシの幼虫は危険にさらされることなく、樹皮下
  の栄養分豊かな形成層付近を食害できる。

・ 二次性害虫である大部分の樹皮下キクイムシは本
  来マスアタックの習性は持たないが、風害や食葉
  性昆虫の大発生などで衰弱木が大量に発生する
  と、その上で個体数を急増させ、結果的に周辺の健
  全木にマスアタックすることになる。これが「二次
  性害虫の一次性害虫への転化」である。

・ また、樹木の抵抗力を封殺するために、病原性のあ
  る青変菌類と共同歩調をとることがある。青変菌
  とは、樹木の辺材部を侵し、材を青黒く変色させる
  一群の子嚢菌類のことである。

・ これらの菌は侵入部周辺の生きた樹木組織を殺
  し、辺材部に侵入し一か月程で辺材部に広がり、水
  の通導を止めさせ樹を衰弱させ、抵抗反応を抑え
  込む。

・ 多くの穿孔性甲虫類は、材の中で例外的に栄養分
  に富んだ樹皮下の組織を利用している。いわゆる
  樹皮下昆虫である。しかし材のこの部位は競争者
  が多く、また樹皮直下であるため外部からの寄生
  性昆虫の攻撃にもさらされやすい。

・ もっと材内深くに潜り込んで生活できれば安全こ
  の上ないが、窒素分の枯渇という問題がある。

・ 腐朽材を利用する昆虫達が、材と微生物の混食と
  いう方法でこの問題を克服しているが、腐朽材は
  競争者や天敵が多いニッチェでもある。

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