樹木医からの一言(16)

 

樹木の防衛機能
 

・ 樹木の活力の源は、光合成による糖の生産である。光合成
  は、光エネルギーを使って水分子を水素分子と酸素分子に分
  解する明反応と、その結果得られた水素分子と大気から吸収
  した二酸化炭素を使ってブドウ糖を合成する暗反応に大別で
  きる。

・ 樹木の病虫害に対する抵抗能力の多くは、組織細胞の糖を
  基にした抗菌物質の生成に依存するので、光合成の活発な樹
  木、即ち葉量の多い(エネルギー生産能力の高い)個体ほど
  一般的に抵抗性が大きい。

・ 樹木は成長過程で無数の枝・小枝を脱落させる。若木のと
  きに存在した枝は壮齢木のときには、ほとんど残っていない。
  枝の脱落に大きな役割を果たすのが風や雪のような物理的力
  と木材腐朽菌である。木材腐朽菌は死んだ枝の強度を低下さ
  せ、自然落下を促す。

・ 樹木は枝の脱落に対して、その傷から病原菌を樹幹や大枝
  に侵入させない防御システムを発達させている。
  幹のカラーがフラッシュカットによって傷つくと、幹の木部
  の切口の上部と下部は、急速にまた広範囲に感染し、腐朽が
  広がる。剪定が正しく行われて幹のカラーを傷つけたり取り
  除いたりすることがなければ、幹の木部にはほとんど感染し
  ない。

・ 枝が衰退したり枯れたりしたとき、枝の組織を取り巻いて
  いる幹の生きた柔細胞組織から多量の抗菌性物質が生産され、
  病原菌に対抗する。生産されたこれらの抗菌物質は枝の基部
  に盃状にへこんだ形で集積し、そこに極めて固く黒褐色です
  べて死細胞からなる防御層を形成する。

・ この防御層は水分を通さないので、防御層が完成すると幹
  から枝への水分や窒素・ミネラルの供給も停止する。ゆえに
  枝の枯死は樹木の病虫害や傷に対する反応の過程で促進され
  ることになる。このような反応は樹体の生きた部分ではどこ
  でも起こると考えてよい。

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